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セイドレイ【完結】
第25章 暗転

「──入るぞ」
病室のドアが開き、白衣に身を包んだ雅彦が入ってくる。
「待たせたな。新堂は今さっき帰った。もう部屋に戻っていいぞ」
「は…はい。あの、お父様……新堂はなんて言ってましたか…?うまく誤魔化せたんでしょうか…。私、不安で…」
「うむ…。かなり疑っているようではあったが、今日のところはなんとかなった。どのみちあいつにはそれを確かめる手段がない。ただ、今後はもっとうまくやらんと厳しいかもしれん」
雅彦はそう言うと、ベッドの端に腰を下ろした。
亜美と雅彦が共謀し、妊娠および流産を "でっち上げた" という事実。
こんなことがもし新堂にバレでもしたら──そのことに亜美が不安を覗かせるのも当然であろう。
そしてそれは、雅彦も同じであった。
しかしもう、時は戻せない。
加害者と被害者であったはずのふたりが、 "新堂を欺く" というたったひとつの目的によって共犯関係となった。
それは、たとえばこんなふうにして──。
「──亜美。 "お薬" の時間だ」
雅彦は、白衣のポケットから一粒の錠剤を取り出した。
「は…はい…」
雅彦はその錠剤を口に含むと、亜美をそっと抱き寄せる。
そして──。
「──ンッ…」
ふたりは唇を重ねた。
一粒の錠剤が、雅彦から亜美へと "口移し" される。
「──お前はなにも心配しなくていい。全部ワシがなんとかしてやる」
「お…とう…さまっ…──ンンッ」
ふたりは一瞬見つめ合うと、互いを貪るようなディープキスを続けた。
今、亜美が口に含まされている錠剤──これこそが、新堂を欺くための "鍵" である。
長い口づけのあと、雅彦はそばに置いてあったペットボトルの水を口に含むと、再び亜美と唇を重ね、それを流し込んでいく──。
「──ンッ…ンン……ゴクッ」
錠剤が、水とともに亜美の喉を通過した。
「──いいか。余計なことは考えるな。全部ワシに任せろ。お前はこれさえ飲んでいれば、妊娠することはない」
「は…はい…。わかり…ました──」
そう──、たった今雅彦が亜美に経口摂取させた錠剤。
これはなにを隠そう、"ピル" だったのである。

