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セイドレイ【完結】
第27章 愛
「師匠…ごめんなさい……」

三人が帰った部屋の中で、田中は一人そうつぶやいていた。

田中は、慎二達がやってきた際、亜美を繋いでいた鎖とリードを、咄嗟にベランダへと隠していた。

最初はクローゼットに隠そうと思っていたが、ベランダにして正解だった。

帰り際、「今度は普通に遊ぼう」と言ってくれた慎二の言葉に、田中は胸を痛めていた。

やはり、自分はとんでもない間違いを犯している。

だが、もう後戻りはできないーー。



では、この時亜美はどこに居たのか。

実は、慎二たち三人が田中の家に到着するほんの数分前、亜美は確かにこの部屋の中に居たのだ。

そして玄関をノックする音がすると、本山が現れた。

「…高崎、行くぞ。さぁ、これ羽織って」

本山はそう言って、全裸の亜美にコートを着せた。

「…行くって…どこへ?」

亜美が本山に尋ねる。

「…客が来るらしいぜ。理事長にマンションまで連れて来るように言われた。さぁ、急ぐぞ」

新学期が始まるまで客は来ないはずでは…と思ったが、新堂のことである。早速、無理矢理にでも予定を入れたのだろう。

田中は無言で亜美の鎖を外すと、首輪は着けたまま、亜美は本山に連れられて部屋を出て行った。

アパートの階段を降り、路駐されている本山の車の後部座席に乗り込む。

車がゆっくり走り出す。

亜美は虚ろな表情で何となく窓の外を見ていた、その時ーー。

前方から、見覚えのある男達三人が歩いてくる。

(えっ…?嘘…どうして!?)

亜美は目を凝らした。

徐々にスピードが上がる。

ほんのわずかな一瞬、亜美を乗せた車と、その三人の男達がすれ違う。

暗がりでも分かった。

亜美がプレゼントしたネクタイを締めた健一。
同じく、亜美がプレゼントしたスウェットを着た慎二。

そして、その二人と一緒に居るはずのない、貴之。

亜美は振り返り、三人の小さくなって行く背中をバックドアのガラス越しに見る。

何故だか、涙が溢れそうになる。

貴之はもちろんのことだが、健一や慎二にまで、どうしようも無く恋しい気持ちが溢れてくる。

情、というものなのか。

亜美はその気持ちを理解できないまま、本山が運転する車は右折をし、三人の姿が視界から消える。

しかしその背中が見えなくなってからも、亜美はずっと後ろを振り返っていたーー。
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