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セイドレイ【完結】
第29章 ぬけがら
「あの日、お前が乱入してきたのは想定外だったがな。亜美はもう、昨夜の便で日本を発ったよ。ワシは仕事で見送りに行けなかったから、代わりに新堂に行ってもらった。その時、お前に渡して欲しいとその手紙を預かったそうだ。ただ、新堂も忙しい奴でな。本山先生に頼んで、今朝お前の家に持って行ったということだ」


「そんなっ……嘘だろ……うっ、うぅっ…くっ…」


涙を流し、立ち尽くす貴之を、雅彦は複雑な心境で見つめていた。

これは全て新堂が描いた架空のシナリオだ。

そしてまんまと、雅彦もその登場人物に仕立てあげられてしまった。

雅彦はトドメを刺すかのように、新堂の台本には無い台詞をアドリブで追加する。


「…水野くん、君がショックを受けるのは分かる。しかし、短い間ではあったが亜美の恋人だった君が、一番よく分かっているんじゃないか?あれはーー、亜美という子は、魔性の女だ。周囲の男達をダメにしていく。君にとっても、これで良かったんだよ。悪いことは言わない、亜美のことはもう忘れてーー」


雅彦が最後の台詞を言い切る前に、貴之はその場から駆け出してしまった。

地面には、亜美が書いたとされる手紙が落ちている。

雅彦はそれを拾い上げ、手紙に目を通した。

亜美の筆跡を真似て書かれた手紙だと新堂は言っていた。
しかし雅彦はそもそも、それが亜美の筆跡かどうかすら分からなかった。


自分は一体、亜美の何を知っていたのだろう。


「…ワシもあの小僧と同じだな」


雅彦はそう小さくつぶやくと、手紙を折りたたみ、ズボンのポケットにしまい込んだ。

そして大きく肩を落として深いため息をつくと、屋敷へと戻って行った。

その背中は、一回りも二回りも小さくなったように思えた。
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