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セイドレイ【完結】
第29章 ぬけがら
その頃、そんな事になっているとは知らない健一と慎二は、再度田中の家に訪れていた。

「あ…師匠……と、お兄さん。ど、どうしましたか?」

玄関のドアを開けた田中が、若干引きつったような表情で二人を出迎える。

「いやぁ…朝早くにごめんね。あと、何度もしつこくてごめん。…やっぱりあの日のこと…どんな些細なことでもいいんだ。思い出してくれないかなぁ…?頼むよ!」

慎二が田中にそう懇願する。

「……申し訳ないんだけど、本当に覚えてることは全部話したつもり…です。それに…昨日の夜、刑事が家に来たんだ…」

「えっ…!?」

健一と慎二は、思わず顔を見合わせて驚く。

「一応、刑事にも同じことを話しました…まさかこんなことになるとは思ってなくて、び、びっくりしたんだけど…」

田中の目が泳いでいるのが気になりながらも、ちゃんと亜美が捜索されていることを知った二人は、少し安堵した。


「…で、でね、僕…急遽引っ越すことになったんですよ…だから、もう会えないと思うんで、すいません…」

「…引っ越す?!どうしてまた、急に…?」

「…じっ、実家の親の介護が必要になっちゃって…も、もうこの部屋も引渡しちゃうんで、はい……師匠にはお世話になったのに…しかも、亜美ちゃんがこんな時に…何も力になれなくて…ごっ、ごめんなさい!僕、この後行かなきゃいけないとこがあるんで、このへんでご勘弁を……」

「お、おう……こっちこそごめんね。じゃあ田中さん…元気でね」


パタン、と玄関のドアが閉められた。


腑に落ちないような表情を浮かべる慎二の肩を、ポンと健一が叩く。


「……既に公安が田中さんを嗅ぎつけて捜査してるってことは、俺達の出る幕はねぇな。新堂のおっさんも、俺らが関わってたことはもう知ってるだろうし。しかも、取り調べも終わってんなら田中さんはシロなんじゃないか?」

「そ…そうだよね……」

「…だからってなぁ、何もせずじっとしてるのもアレだしなぁ……ったく、一体どこのどいつが亜美をさらっちまったんだよ…クソが」




この田中の引越しは、もちろん新堂の差し金によるものだった。
こうしてひとつひとつ、亜美への手がかりは失われていくのだった。
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