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セイドレイ【完結】
第32章 漂泊
「新垣……ほんと………ありがとな」

「特別サービスだからね!…あーあ、私ってどこまでお人好しなんだか……でも」

「でも…何?」

「…うん。いや…やっと笑ってくれた、と思って」

「…笑う?俺が??」

「そーそー。その笑顔、あんまり誰にでも見せない方がいいよ。きっと亜美ちゃんも、そう思ってたはず」

「どういう…意味だよ?」

「あはは。女の勘…ってやつ?」

千佳は、自分と同じ人を好きになった亜美も、きっと貴之のこの笑顔に惹かれたのではないかと思った。

「…でも、やっぱりなんか新垣にお礼しなきゃな。このままじゃ悪いっていうか、なんつーか…」

「そうだねぇ。…じゃあさ、今度私とデートして!…もちろん、友達として…」

「…友達としてって…それデートって言うのか?」

「細かいこと言わない!…もし、二人のけじめがついたら、ってことでいいから。それならいいでしょ?1日だけ。私に付き合ってよ」

「……うー、分かった。それに…仮にこのメモの場所に行っても、亜美に会えるとは限らないし…な。なんなら俺が避けられてるだけかもしんねーし」

「あれ…自信無いの?」

「…んなもんあるかよ。だって手紙一枚でさよならされたんだぜ?しつこいって思われるだけかもな…はぁ」

「そっか…。色々あったんだね。それにまだ…あの子が亜美ちゃん、って決まったわけでもないしね。…でも、不思議だね」

「…不思議?何が?」

「…ううん。…前に…変な動画出回った時もそうだったけどさ。亜美ちゃんてめちゃくちゃかわいいのに、何だろう…色んな顔に見えるって言うかさ。あの動画はもちろん亜美ちゃんじゃないだろうけど…今回の写真も前の動画も、亜美ちゃんと思って見ればそう見えるんだけど、でも違う人に見えるっていうか…何だろ。私、変なこと言ってるね」

「…いや。そう…かも。俺もうまく言えないけど…なんかそれすげー分かるわ…」

「あー。亜美ちゃんそれ聞いたら絶対怒るよ?彼女の顔も分かんないのか!って」

「ははは。そうだよな」

二人は笑っていた。
傍から見れば、仲睦まじい高校生のカップルに見えただろう。


たとえ同一人物でも、別人のような顔を見せることはある。

写真に写る少女がたとえ亜美だったとしても、それは貴之が知っている亜美とは違うのかもしれない。

貴之はぼんやりそんなことを考えていた。
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