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セイドレイ【完結】
第32章 漂泊

最初こそ千佳はつまらなそうにしていたのだったが、いざ試合が始まると、対戦チームのピッチャーとしてマウンドに立っていた一人の選手に目が止まる。
「(あ…なんかちょっと…好きな感じかも)」
千佳は普段プロ野球も見ないし、ルールすらほとんど把握していなかったが、そのピッチャーは次々と、千佳の中学のバッターを討ち取って行く。
結果、千佳の中学の野球部はボロ負け。
友人や父兄らがその結果に肩を落とす中、千佳だけは相手チームのその投手にすっかり目を奪われていた。
試合中に見せる真剣な眼差しも、時折見せる屈託の無い笑顔も素敵だと思った。
いわゆる、一目惚れというやつだった。
しかし二人の接点はその一度切りで、千佳はその野球少年の面影を記憶の片隅に仕舞ったまま、高校生になった。
ところがその後、千佳はその少年に思わぬ形で再会することとなる。
そう、その少年こそ。
高一の二学期に他校から編入してきた、水野貴之だったのだ。
「まじ…か」
千佳の話を聞き、驚きを隠せない貴之。
まさか、自分が野球に励んでいた頃の姿を知っているとは思いもよらなかったからだ。
「もうね…これは運命なんじゃないか、って思っちゃってさ。でも早速、となりに女の子が居た。それが亜美ちゃん」
「…………うん」
「そんなさ…いきなりなんで?って。しかも、よりによってそれが亜美ちゃんだなんてさ。可愛くて頭も良くて。他にいくらでも男の子なんて居そうなのに…どうしてわざわざ、水野君なの?って…」
「はは…どうしてだろ…な。俺も知りたいくらいだよ…」
「…はい。私はちゃんと質問に答えたからね。で…、どうするの?私と付き合ってくれるの?」
「い、いや……その………ごめん。俺、今はまだちょっと…考えられない。ごめんな。あのマンションは自分で探してみるよ」
「…ふーん。『今は』か…ま、いっか。それじゃあ…はい、これ」
そう言って、千佳が1枚のメモを差し出す。
「…これって?!でもっ…俺は…」
「…ふふ。それで簡単に付き合うとか言ってたら、絶対教えてあげないって思ってた。…ちゃんとけじめ、つけてきて?」
「新垣………」
「それでもし、二人がよりを戻すなら私はきっぱり諦める。だけどそうじゃなかった時は……また私、告白するから。でもその時は、ちゃんと私を好きか嫌いかで答えてね?」
「(あ…なんかちょっと…好きな感じかも)」
千佳は普段プロ野球も見ないし、ルールすらほとんど把握していなかったが、そのピッチャーは次々と、千佳の中学のバッターを討ち取って行く。
結果、千佳の中学の野球部はボロ負け。
友人や父兄らがその結果に肩を落とす中、千佳だけは相手チームのその投手にすっかり目を奪われていた。
試合中に見せる真剣な眼差しも、時折見せる屈託の無い笑顔も素敵だと思った。
いわゆる、一目惚れというやつだった。
しかし二人の接点はその一度切りで、千佳はその野球少年の面影を記憶の片隅に仕舞ったまま、高校生になった。
ところがその後、千佳はその少年に思わぬ形で再会することとなる。
そう、その少年こそ。
高一の二学期に他校から編入してきた、水野貴之だったのだ。
「まじ…か」
千佳の話を聞き、驚きを隠せない貴之。
まさか、自分が野球に励んでいた頃の姿を知っているとは思いもよらなかったからだ。
「もうね…これは運命なんじゃないか、って思っちゃってさ。でも早速、となりに女の子が居た。それが亜美ちゃん」
「…………うん」
「そんなさ…いきなりなんで?って。しかも、よりによってそれが亜美ちゃんだなんてさ。可愛くて頭も良くて。他にいくらでも男の子なんて居そうなのに…どうしてわざわざ、水野君なの?って…」
「はは…どうしてだろ…な。俺も知りたいくらいだよ…」
「…はい。私はちゃんと質問に答えたからね。で…、どうするの?私と付き合ってくれるの?」
「い、いや……その………ごめん。俺、今はまだちょっと…考えられない。ごめんな。あのマンションは自分で探してみるよ」
「…ふーん。『今は』か…ま、いっか。それじゃあ…はい、これ」
そう言って、千佳が1枚のメモを差し出す。
「…これって?!でもっ…俺は…」
「…ふふ。それで簡単に付き合うとか言ってたら、絶対教えてあげないって思ってた。…ちゃんとけじめ、つけてきて?」
「新垣………」
「それでもし、二人がよりを戻すなら私はきっぱり諦める。だけどそうじゃなかった時は……また私、告白するから。でもその時は、ちゃんと私を好きか嫌いかで答えてね?」

