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セイドレイ【完結】
第35章 空蝉

寒い冬が終わりを告げ、まだ肌寒さは残るもののようやく春らしくなってきた3月下旬。
貴之は春休みを迎えていた。
「なんか…期待した程じゃなかったね…」
そう溜め息混じりに肩を落とすのは、千佳だった。
この日、貴之と千佳は春休みを利用して2人で映画を観に来ていた。
観に行きたいと言ったのは、もちろん千佳だ。
「お前が見たいって言ったんだろ…?まぁ確かに、微妙だったな」
少し笑いながら、貴之がそう返す。
「これからどうする?まだ時間あるからお茶でもする?」
「お、そうだな。行こ行こ」
あれからおよそ2ヶ月が経過していた。
あの公園での出来事以来、貴之は亜美の姿を見ていない。
その後、千佳に対しては、
『あれは亜美じゃなかった』
と、一言だけ報告するに留めた。
そして、
『約束だから』
と、千佳の要求を聞き入れ、デートをすることにした。
もっと早くにデートをしても良かったのだが、学年末テストも控えていたため、どうせならそれらが終わってからの春休みに…ということになり、二人は今日、初デートとなった。
映画を観終えた二人は、近くのカフェに入る。
「うわー全部うまそ…俺…腹減っちゃった」
目を丸くしながらメニューに見入っている貴之の顔は、まるで純朴な子供のようだ。
千佳は思わず、その屈託のない表情に見蕩れてしまう。
「…ん?どした?俺の顔なんか変?」
「ちっ…違う違う!私も…つまんない映画観たらお腹空いちゃった。何にしよーかな~」
千佳から見た貴之は、特に変わった様子が無いように思える。
『あれは亜美ではなかった』
そう貴之の口から聞いた直後こそ、相当落ち込んでいるようにも見えた。
それから2ヶ月が経ち、少しは悲しみも癒えたのだろうか、と。
あの日、公園で本当は何があったかを知らない千佳は、貴之が言っていた『けじめ』とやらがついたのかどうか、半信半疑ではあった。
しかし今、目の前で無邪気にメニューを選ぶ貴之を見ていると、亜美のことはもう既に吹っ切れたのかもしれないと、淡い期待を抱かずにはいられなかった。
「(今もう一度告白したら…どうなるのかな…)」
貴之は春休みを迎えていた。
「なんか…期待した程じゃなかったね…」
そう溜め息混じりに肩を落とすのは、千佳だった。
この日、貴之と千佳は春休みを利用して2人で映画を観に来ていた。
観に行きたいと言ったのは、もちろん千佳だ。
「お前が見たいって言ったんだろ…?まぁ確かに、微妙だったな」
少し笑いながら、貴之がそう返す。
「これからどうする?まだ時間あるからお茶でもする?」
「お、そうだな。行こ行こ」
あれからおよそ2ヶ月が経過していた。
あの公園での出来事以来、貴之は亜美の姿を見ていない。
その後、千佳に対しては、
『あれは亜美じゃなかった』
と、一言だけ報告するに留めた。
そして、
『約束だから』
と、千佳の要求を聞き入れ、デートをすることにした。
もっと早くにデートをしても良かったのだが、学年末テストも控えていたため、どうせならそれらが終わってからの春休みに…ということになり、二人は今日、初デートとなった。
映画を観終えた二人は、近くのカフェに入る。
「うわー全部うまそ…俺…腹減っちゃった」
目を丸くしながらメニューに見入っている貴之の顔は、まるで純朴な子供のようだ。
千佳は思わず、その屈託のない表情に見蕩れてしまう。
「…ん?どした?俺の顔なんか変?」
「ちっ…違う違う!私も…つまんない映画観たらお腹空いちゃった。何にしよーかな~」
千佳から見た貴之は、特に変わった様子が無いように思える。
『あれは亜美ではなかった』
そう貴之の口から聞いた直後こそ、相当落ち込んでいるようにも見えた。
それから2ヶ月が経ち、少しは悲しみも癒えたのだろうか、と。
あの日、公園で本当は何があったかを知らない千佳は、貴之が言っていた『けじめ』とやらがついたのかどうか、半信半疑ではあった。
しかし今、目の前で無邪気にメニューを選ぶ貴之を見ていると、亜美のことはもう既に吹っ切れたのかもしれないと、淡い期待を抱かずにはいられなかった。
「(今もう一度告白したら…どうなるのかな…)」

