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セイドレイ【完結】
第35章 空蝉
「げほっ、げほっっ……んっ、はぁ…はぁ…はぁ……ひっ…ひどいょ……貴之……はぁ…はぁ…」

千佳は肩で息をしながら呼吸を整える。
その目にはいっぱいの涙が滲んでいた。

「…どうしたんだよ。まだまだこっからなんだけど」

便座でうずくまる千佳に貴之が言う。
すると次の瞬間、千佳が立ち上がり、貴之の左頬に力いっぱいのビンタを食らわした。

「……最っ低!!」

千佳はそう言い捨てて、トイレの個室から走り去って行く。

ひとり個室に残された貴之は、千佳の唾液まみれになってしょぼくれた自分のイチモツを見下ろす。

「……はぁ。何やってんだろ…俺」

千佳にぶたれた左頬を撫でながら、貴之は個室のドアを閉め鍵をかけると、力無く便座に腰を下ろした。

「最低……か」

自分でもその通りだと思った。

千佳にセックスをしたいとせがまれた時までは、まだそれを普通にできる自信がどこかにあったように思う。
いや、むしろそうでなければいけないと、どこかで自分に言い聞かせていた。

しかしいざその時になると、貴之は無性に怖くなった。
まるで亜美の亡霊にでも取り憑かれたかのように、普通にセックスをするということが怖くて仕方がなくなった。

亜美を忘れてしまうことが怖かったのか。
それとも、忘れられないことが怖かったのか。

貴之には分からなかった。

ただ、そこにどんな理由があろうと、何の罪も無い千佳に酷いことをしてしまった言い訳にはならない。
好意を寄せていた相手からレイプ紛いの事をされたのだ。
その心の傷は図り知れない。
きっと千佳は、貴之との初めてのキスやセックスに色々な期待を抱いていたであろう。
それを貴之は、自分の弱さのせいで踏みにじったのだ。
最低、と言われても物足りないくらいに最低だった。

「あ~…ちくしょう…どうすりゃいいんだよ…」

貴之は頭を抱えながら、無意識にスマホを手に取った。

最低なら、どこまでも最低でいい。
そんな自暴自棄にも似た感情と、中途半端に火照ったカラダの疼きを抑えたかった。

まだ、あの動画たちはサイト上にあるのだろうかーー。

貴之は久々に『セイドレイ』のトップページにアクセスした。

そこで貴之は早速、自分の目を疑うことになる。

「なっ……なんだよ…これっ…!?」
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