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セイドレイ【完結】
第39章 分水嶺

「…おーい、新人!今日はもう上がっていいぞ~。お疲れ様。また明日も頼むな」
「あっ…はいっ!お先に失礼しますっ…」
貴之は被っていた帽子を取り、深々と上司に頭を下げる。
季節は夏になり、陽も長くなった。
貴之は首にかけたタオルで額から流れ出る汗を拭いながら、事務所の隅にある自分に当てがわれたロッカーを開け、水筒を取り出すとお茶を口に含んだ。
ここは、貴之の家から数キロ先にある、造園業を営む会社だ。
貴之は高校を自主退学したあと、今はアルバイトとしてここで働いていたのだ。
主な仕事内容は、公園などの公的施設の草刈りや、樹林の手入れの補助をする。
まだ見習い期間ではあるが日給は8000円。
体力には自信がある貴之だったが、連日茹だるような暑さが続く中、日中に外で仕事をするのは思った以上にハードではあった。
幸い、上司や同僚は皆良い人達ばかりだ。
基本的に年齢層が高い職場の中で、まだ16歳の貴之はその若さを重宝されていた。
お茶を飲みながら、ふと事務所内に置かれたテレビを何気なく眺めていると、夕方の情報番組がこの地域の特集を放送していた。
「あ……」
貴之はテレビに釘付けになる。
その時テレビに映し出しされていたのは、見覚えのある建物。
そして画面の右上には、こうテロップが出ていた。
『より多くの新しい命を…院長60歳の決断と挑戦(1)』
「あれ…?この産婦人科、確かお前ん家の近所だったよなぁ?」
デスクで伝票の処理をしながら同じくテレビを見ていた上司が、貴之にそう話しかける。
「……はい。うちから歩いてすぐのところです」
そう。
それは他でもない、あの『武田クリニック』の特集だった。
内容は、武田クリニックがこの地域に古くからある産婦人科だということに始まり、施設内の案内や、定期的に行われているマタニティ教室の内容、不妊治療に訪れていた一組の夫婦などが映し出されていく。
度々画面には、院長である雅彦の姿が映る。
そして特集の最後には、当院が現在比較的大規模な改修工事を行っており、今後はより多くの患者に利用してもらう為、近々全面的にリニューアルする、という宣伝で〆られていた。
『…院長先生の、産科医としての飽くなき挑戦はまだまだ続きます。番組は引き続き、そんな武田院長に密着して行きます。…では、続いてお天気コーナーです』
「あっ…はいっ!お先に失礼しますっ…」
貴之は被っていた帽子を取り、深々と上司に頭を下げる。
季節は夏になり、陽も長くなった。
貴之は首にかけたタオルで額から流れ出る汗を拭いながら、事務所の隅にある自分に当てがわれたロッカーを開け、水筒を取り出すとお茶を口に含んだ。
ここは、貴之の家から数キロ先にある、造園業を営む会社だ。
貴之は高校を自主退学したあと、今はアルバイトとしてここで働いていたのだ。
主な仕事内容は、公園などの公的施設の草刈りや、樹林の手入れの補助をする。
まだ見習い期間ではあるが日給は8000円。
体力には自信がある貴之だったが、連日茹だるような暑さが続く中、日中に外で仕事をするのは思った以上にハードではあった。
幸い、上司や同僚は皆良い人達ばかりだ。
基本的に年齢層が高い職場の中で、まだ16歳の貴之はその若さを重宝されていた。
お茶を飲みながら、ふと事務所内に置かれたテレビを何気なく眺めていると、夕方の情報番組がこの地域の特集を放送していた。
「あ……」
貴之はテレビに釘付けになる。
その時テレビに映し出しされていたのは、見覚えのある建物。
そして画面の右上には、こうテロップが出ていた。
『より多くの新しい命を…院長60歳の決断と挑戦(1)』
「あれ…?この産婦人科、確かお前ん家の近所だったよなぁ?」
デスクで伝票の処理をしながら同じくテレビを見ていた上司が、貴之にそう話しかける。
「……はい。うちから歩いてすぐのところです」
そう。
それは他でもない、あの『武田クリニック』の特集だった。
内容は、武田クリニックがこの地域に古くからある産婦人科だということに始まり、施設内の案内や、定期的に行われているマタニティ教室の内容、不妊治療に訪れていた一組の夫婦などが映し出されていく。
度々画面には、院長である雅彦の姿が映る。
そして特集の最後には、当院が現在比較的大規模な改修工事を行っており、今後はより多くの患者に利用してもらう為、近々全面的にリニューアルする、という宣伝で〆られていた。
『…院長先生の、産科医としての飽くなき挑戦はまだまだ続きます。番組は引き続き、そんな武田院長に密着して行きます。…では、続いてお天気コーナーです』

