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セイドレイ【完結】
第1章 悲劇のヒロイン
亜美にとって学校で過ごす時間は、まるで光の速さのように過ぎ去っていく。
放課後になれば、部活動に精を出す生徒、友だち同士で寄り道して帰る生徒など、高校生活をみなそれなりに謳歌しているが、亜美はそのどれでもなかった。
(だって…今日もまた……)
下校する亜美の足取りは、重い。
うつむき加減に歩いていた亜美がふと足を止め、虚ろな表情で見上げた先──。
そこには、周囲の景色の中でもひときわ目立つ「武田クリニック」の看板が見えていた。
(なんで私ばかり…こんな目に遭うの?)
もう何度、自問しただろうか。
亜美のその問いかけに答える者は、誰もいなかった。
歩みを進めるたびに、遠くに小さく見えていた看板が、徐々に近づき大きくなる。
このままどこかへ逃げてしまおうかと考えたこともあった。
しかし、高校一年生の彼女の「世界」は、あまりに狭かった。
家と学校を往復するだけの毎日。
最愛の両親も、もうこの世にいない。
(今から起こることは全部夢…そう、悪い夢なんだ)
そう自分に言い聞かせることが、亜美にできる精一杯の処世術だった。