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セイドレイ【完結】
第42章 原風景
「……し、師匠っ??その頭っ…どうしたんですかっ?」

仕事から帰宅するなり、田中が驚きの声を上げる。

「…あ、うん。何年ぶりかに美容院とやらに行ってきてさ。もう最悪だったぜ…俺他人に髪の毛触られるの大嫌いなんだよね……」

髪を触りながら、どこか居心地悪そうに慎二が言う。

「ぜっ…絶対っ!絶対その方がいいですよっ!!すごく似合ってます……本当にっ!!」

「…そう?ならいいんだけど…なんか頭がスースーして、風邪ひいちゃいそう……へっくしっ!」

慎二は髪を短く切っていた。
それまでの、伸び放題で常に寝癖でボサボサになっていた不潔な印象からは、だいぶマシになったように見える。

こうしてあらためて慎二の顔を見てみると、元の造形はそこまで悪くないのだ。
痩せて身なりを整えれば、それなりに見えるのではないだろうかと田中は思う。
もちろんそうなるには、相当な努力が必要だと思われるが。

「…でも何で…また急に?そもそも日中、師匠が外へ出ること自体が珍しいのに……」

田中が疑問を口にする。
慎二がここへ来てからというもの、ちょくちょく夜中に外へ出ていくことはあっても、それ以外はずっと部屋に閉じこもっていたからだ。

「あ…うん。俺さ…ちょっと働いてみようかと思ってて……まだ全然、どんな仕事にするかとか考えて無いんだけど…とりあえず履歴書の写真撮らなきゃと思ってさ。そんで…まぁ。うん。…ん?田中さん、どうしたの?そんな驚いた顔して……」

「いっ……いえ………師匠、今働くって……?」

「ん?うん。いや、まだ何も決まって無いからね?働こうかな、ということを思っただけという。思っただけだからね?」

どういう風の吹き回しだろうか。
これまで、労働というものから最も無縁だった慎二が、急に働く意志を覗かせたのだ。

「…うっそ。でも…すごい、すごいよ師匠…!良かった……そう思ってくれて……思ってくれただけでも……あぁ…明日雪が降るかも…」

「んもう。何それ。いちいち大袈裟なんだから~田中さんは。…まぁ俺もさ、いつまでもここにいるわけにもいかないし。仕事が決まったら出てくつもりだからさ。それまでは迷惑かけちゃうけども……ごめんね。いつも飯とか色々やってくれて。これからは俺も少し手伝うからさ…」

まるで別人のようだ。
一体この数日の間に、慎二に何があったというのだろう。
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