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セイドレイ【完結】
第51章 顔

出産から約2時間程が経過した。
全力で守られた2人の赤子は、元気な産声を上げた。
初産、しかも双子ということで、出産前は様々な懸念があったが、蓋を開けてみれば超がつく程の安産だった。
本当に運が良かったのだと亜美は思った。
『よく頑張りましたね』
出産直後に医師がそう言ったのを聞いて、亜美は自然と涙が溢れた。
頑張ったのは自分では無い。
ここにいる全員だと、医者と看護師、そして2人の男の子に亜美は心から感謝した。
赤ん坊は双子のため、一旦NICUへ。
一方、亜美は産後の出血や子宮収縮も特に異常は診られず、つい先程分娩室から病室へ戻された。
亜美がこうして休んでいる間に、2人の赤ん坊は様々な検査や処置を受けている。
早く会いたい。
ごくごく自然にそう思う。
人によっては、今この隣りに夫が居たりするのだろうか。
両親や兄弟、祖父母が来てくれている人も居るかもしれない。
そんな亜美の隣には、初めて顔を合わす、父が居た。
ベッドの横で、何も言わず手を握ってくれている。
とても静かな時間だった。
病室のドアの前で、楓は独りハンカチで零れる涙を押さえた。
中から漏れ聞こえる、『親子2人』の気配に耳を澄ませて。
悩んで出した答えが、いつも正解とは限らない。
それでも、自分の正義を信じて、決断をしなければならない。
もっと冴えたやり方があったのかもしれない。
人生とは、そんな後悔の連続だ。
でも、少なくとも。
今日の楓は、自分がした選択に後悔は無かった。
いつも余計なことをしてしまう自分の、集大成のような日だ。
生まれた日のことを、人は覚えてない。
ある時点から、いきなり記憶がスタートする。
そのせいか、
年頃になれば、独りで生まれ、独りで育ったような事を言ってみたりもする。
でも、それは正しいことなのかもしれない。
こんな日のことをいつまでも覚えていたとしたら、
きっと親にワガママなど言えないだろう。
今日産声を上げた2人の男の子も、間もなく今日のことを忘れる日が来る。
だとしても、今ここに居る3人は、今日のことを絶対に忘れないだろう。
楓は、涙を拭ったハンカチを鞄に仕舞うと、髪を掻き上げ、コツコツとヒールの踵を鳴らしながら、病室の前から静かに去って行ったーー。
全力で守られた2人の赤子は、元気な産声を上げた。
初産、しかも双子ということで、出産前は様々な懸念があったが、蓋を開けてみれば超がつく程の安産だった。
本当に運が良かったのだと亜美は思った。
『よく頑張りましたね』
出産直後に医師がそう言ったのを聞いて、亜美は自然と涙が溢れた。
頑張ったのは自分では無い。
ここにいる全員だと、医者と看護師、そして2人の男の子に亜美は心から感謝した。
赤ん坊は双子のため、一旦NICUへ。
一方、亜美は産後の出血や子宮収縮も特に異常は診られず、つい先程分娩室から病室へ戻された。
亜美がこうして休んでいる間に、2人の赤ん坊は様々な検査や処置を受けている。
早く会いたい。
ごくごく自然にそう思う。
人によっては、今この隣りに夫が居たりするのだろうか。
両親や兄弟、祖父母が来てくれている人も居るかもしれない。
そんな亜美の隣には、初めて顔を合わす、父が居た。
ベッドの横で、何も言わず手を握ってくれている。
とても静かな時間だった。
病室のドアの前で、楓は独りハンカチで零れる涙を押さえた。
中から漏れ聞こえる、『親子2人』の気配に耳を澄ませて。
悩んで出した答えが、いつも正解とは限らない。
それでも、自分の正義を信じて、決断をしなければならない。
もっと冴えたやり方があったのかもしれない。
人生とは、そんな後悔の連続だ。
でも、少なくとも。
今日の楓は、自分がした選択に後悔は無かった。
いつも余計なことをしてしまう自分の、集大成のような日だ。
生まれた日のことを、人は覚えてない。
ある時点から、いきなり記憶がスタートする。
そのせいか、
年頃になれば、独りで生まれ、独りで育ったような事を言ってみたりもする。
でも、それは正しいことなのかもしれない。
こんな日のことをいつまでも覚えていたとしたら、
きっと親にワガママなど言えないだろう。
今日産声を上げた2人の男の子も、間もなく今日のことを忘れる日が来る。
だとしても、今ここに居る3人は、今日のことを絶対に忘れないだろう。
楓は、涙を拭ったハンカチを鞄に仕舞うと、髪を掻き上げ、コツコツとヒールの踵を鳴らしながら、病室の前から静かに去って行ったーー。

