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セイドレイ【完結】
第51章 顔
「そう...だね。なんか女々しくてカッコ悪いけど。僕が独りで居れば...いつかあいつが戻って来てくれるんじゃないか、って。その時のために、僕の隣りを空けておきたかったのかもしれない。...今だってそう。だからさ、こんな歳まで誰とも真剣に関わって来なかった。酔った勢いに任せたワンナイトばっかさ。だから、お姉さんがうちの前で立ってた時は、まさかっ...!?ってつい焦っちゃって...へへへ。みっともないよなぁ...」

楓はどこか安堵していた。
少なくとも、この事実が亜美を傷つけることは無いだろうと。
いや、この男の存在が、かもしれない。

もちろん、どんな事情があろうが、奈美が不貞を働いたのは事実だ。
その一夜の過ちによって産まれたのが自分であるという事実に関しては、亜美は傷つくかもしれない。

しかし、行きずりの男などでは無く、その一夜の啓太郎と奈美の間には、確かに愛があったのだろうと楓は思う。

そしてその事実を知りながらも、亜美に精一杯の愛情を注いだ戸籍上の父親である、信哉の存在。
血の繋がらない我が子にもしものことがあった時のためにと、本来ならば目を背けたいはずの事実を受け入れ、それを記した手紙をしたためていた。

これを愛情と言わずに、何と言うのだ。

亜美は確かに、愛されていた。
それは揺るぎない事実なのだ。

「...亜美ちゃんという子は、その夜、あなたと奈美さんとの間に宿った命です。現在16歳。ですが...その両親である奈美さんと信哉さんは、昨年交通事故で亡くなっています。つまり、奈美さんはもうこの世にいません。だから亜美ちゃんにとって肉親と呼べるのは、血を分けた啓太郎さん、あなたしか居ません。亜美ちゃんに会っていただけないでしょうか...?」

「...そうか。奈美は...死んだ...のか。...って、嘘だろ?」

「...本当です。残念ながら」

「...はは。俺が...俺があいつの手を離したからかな。そんな...ごめん。正直動転してる。よく分かんないや。でも...」

「...でも、会っていただけますね?」

「うん...でも、どうして僕が、一之瀬啓太郎だと...すぐに分かったんですか?」

「...それはもうすぐ分かります。あなたも亜美ちゃんに会えば、きっと...」

2人を乗せた電車が、下車する駅へ到着する。
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