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セイドレイ【完結】
第52章 親展
獄中からの手紙。
基本的には、謝罪の言葉が綴られているだけなのだろう。

切ない気持ち。
亜美は自分の気持ちを、そう言い表した。

きっと、本当は相応しい言葉が他にひとつだけあるはず。
そして、それを言うことが何を意味するかということも、亜美は分かっているのだ。

楓は手紙の中身を確認しようか、一瞬だけ迷う。

しかし、ここは他者が介入してはならない領域のような気がした。
散々これまで取材を通して、亜美の心を紐解こうとしてきたにも関わらず、だ。

亜美になったつもりで、この本を書き上げる。

確かに楓は、あの時そう誓った。

しかし、やはり楓は亜美にはなれなかったのだと、この瞬間に思い知る。

この雅彦からの手紙を楓が読むことができないのが、何よりそれを証明していた。

こんなこと認めたくない。
作家としてのプライドが許さない。

でも、楓は『負けた』と思った。
何に対してかは分からない。
強いて言うなら、自分自身にかもしれない。

性被害に遭った女性を救う。
楓は別に、そんな大それたことは掲げていない。

他者の気持ちが分かるなんて、それこそ傲慢な話だからだ。

でも。
だとしても。

傷ついた女性が。
今にも死にたいと思い詰めている女達が。

楓が書いた本を読み、
5分だけでもいいから、
この世に踏みとどまってはくれないものかと。

それだけを信じて今日まで筆を走らせて来た。

傷を癒すのは、認知することが一番の近道だと、楓はそう思って来た。
綺麗事を並べても、人は救われない。
そこにある真実を見つめることこそが、唯一明日へ繋がる一筋の光なのだ、と。

ならば、人はこの亜美という女性の真実を見つめることが出来るのだろうか。

楓には分からなかった。
そして、そこに迷いがある以上、これを世の中に出すことは出来ない。

ここで楓が亜美に、『あなたはそう思い込んでいるだけ』と説いても、それが何の意味を為さないことを、この4年の取材を通して分かっている。

亜美はもう、きっと迷っていない。


「...待つつもりなのね。あの男が、帰って来るのをーー」


楓はそう一言だけ発すると、亜美に渡すつもりで膝の上に置いていた原稿を、そっと横に退けたのだったーー。
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