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セイドレイ【完結】
第9章 盟友

「…と、いうことなんだよ」

亜美にひと通り「売春ビジネス」の概要を説明し終えた新堂は、どこか遠い目をして地下室の空間を見渡していた。

「…今、何を考えている?」

新堂が亜美にたずねる。
しかし、亜美はなにも応えようとはしない。

「いやね……ついさっき、ここで最初に見たときと今ではずいぶん表情が変わったなぁと思ってねぇ。まるで別人のようだよ。この短い時間で大したもんだ。最初は死んだ魚のような目をしていたが──うん。そうだなぁ…今は "生きてる" って感じがするが、どうなのかな?」

亜美は、この男にすべてを見透かされているような気がしていた。


(私は…私は一体今まで…なにをしていたの…?)


もう、なにがあっても驚くことはないと思っていたのに──。

亜美が驚いたのは、このカラダで金儲けをしようとしている輩が居ることでも、それに投資をする輩が居ることでもない。

考えることをやめ、思考を停止したくらいで、自我が消えて無くなったと勘違いしていた──自分自身に対してだった。

光が差し込むことのないここ地下室で、亜美の消失しかけていたその自我が徐々によみがえってくる──。



(私…なんでこうなるまで…ここから一歩も動けなかったの…────)


「…そういえば、亜美は妊娠しているんだったね。ククッ…まさか、本当にそうなるとはなぁ。雅彦の有言実行ぶりには驚いたよ。しかし雅彦よ、孕ませたのはいいがどうするつもりなんだ?最初の "客" が来るまでには…──」

「…うむ。実はワシもちょっと悩んではいてな。まぁ、まだ時間に余裕はある。もうちょっとこのまま愉しむのも────」


雅彦と新堂がそんな会話を交わしていた、そのとき。


「いっ…痛いっ……おなかっ……────」


突如、亜美の下腹部に、今まで経験したことのないような痛みが襲った。
亜美はそのまま椅子から崩れ落ち、下っ腹を抱えて床にうずくまる。


「お、おい!どうしたっ?!亜美っっ…──────」


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