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セイドレイ【完結】
第53章 落日
一行が辿り着いたのは、外観の古いラブホテル。
入口まで来て初めて、営業していることが分かるようなレベルだ。
店名のネオンは2文字分電光が切れており、一層寂れた雰囲気を醸し出している。

館内は幾度もリフォームが施された痕跡があるが、普通の若者が好んで利用するような場所では無い。
廊下等、共有部の照明も薄暗く、まるで肝試しでもしているかのようだ。

令和の世に、どうしてこんな廃墟のようなホテルが経営出来ているのか疑問に思うが、それには理由があった。

このホテルは付近の相場と比べ、まず利用料が安い。
設備を考えれば妥当と言ったところだろう。

しかし、それだけが理由では無い。

基本的に、何名で入室しようと断られることは無く、人数に応じて追加料金を払えば良い。また、性別による入室制限も無い。
これらトラブルの温床になりかねないシステムを制限するホテルが多い中、ここは乱交プレイがしたい者にはうってつけの場所だろう。

そして何より、このホテルは他の利用客の部屋を行き来しても良いという、『暗黙のルール』が存在する。

ルールは至ってシンプルで、部屋の鍵を開けておくだけでいい。
それがここでの『意思表示』として見なされるのだ。

何も知らずに利用したカップルは、数分置きに部屋の外で何者かがドアノブを捻る音にたいそう怯えるという。

鍵が開いている部屋を見つけたら、あとは客同士で交渉をし、自分達でルールを決める。
乱交に加わる者も居れば、スワッピング等に興じる者も居るのだ。
当然、それを目的に、一人でここへ訪れる客も少なくないらしい。

そんな、無法地帯とも言えるこのホテルの特性が、一部の性的倒錯者達によって『聖域』として崇められている。

当然、如何なるトラブルにも店側は関与しない。
時折揉め事もあることにはあるが、大半は自分達で決めたルールに則って、無秩序なりに最低限の秩序は保たれていた。

この場所に訪れる者は皆、ここを失いたく無いのだ。

フロントの小窓の中。
歯が欠けた受付の老婆が、まるで悪魔に仕えている魔女のように、この伏魔殿の入口で佇む。

亜美達6人は、そんな混沌の世界への扉を開けたのだった。
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