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セイドレイ【完結】
第53章 落日
亜美の瞳が、次第に潤んで行く。

そしてまばたきをすると、一筋の涙が零れる。

再び瞼を開くと、そこには同じように瞳を潤ませた雅彦が居た。




「...こんな立派な部屋、ワシにはもったいない」

「...そんなこと...ない。ほんとはもっと...ちゃんとしたかった...」

「ワシがこの部屋で暮らす姿を想像をしたか...?」

「...うん」

「...そうか。そこでワシはどんな顔をしている?」

「...え?」

「お前の想像の中のワシは、どんな顔をしていた?」

「.........」

「それは.....こんな顔では...なかったか.....?」


雅彦の声は震え、掠れている。

亜美はその時、初めて雅彦の涙を見た。

普通にしていても、いつもどこか険しい表情をしていた男の顔が、ほころびを見せた瞬間だった。


「おとう.....さまっ.......うっ...うぅ.....」


亜美はついに堪え切れず、大粒の涙を零した。


「...亜美。ワシはもう、この通り約立たずだ。お前を抱いてやることもできない」

「...そんなこと...私は気にしてないっ...」

「そうか?...健一から聞いたぞ。お前が何を望んでいるのかを」

「それ...はっ...」

「...ワシの子供が欲しい、違うのか?」

「.........」

「それがお前にとっての『つづき』なのだと、そう聞いている。...だから、健一や慎二とする時も...子供が出来んようにしていたそうじゃないか...」

「...はい」

「...残念だが、今のワシにそれは無理だ。お前にとって、ワシはもう存在価値すら無い。男としてはとっくに死んでいる。不能になったワシとお前の間には、何が残る?...ワシはお前の人生を壊した。お前はその中で、ワシに執着することで必死に自我を保って来た。違うか?」

「.........」

「ワシへの憎しみを愛だと言い聞かせ、カラダに植え付けられた傷を...カラダで塗り潰そうとしている...そうだろう?それを6年も待たせたのに、ワシはその責任すら取ってやれんのだぞ...?こんなに...こんなにもっ...狂おしい程に愛らしくて仕方ないお前が目の前に居ても、ワシはもうっ...お前を抱いてやることすらできんのだぞ...?」

「お父様っ.....」
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