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セイドレイ【完結】
第10章 胎動
亜美は、天井から吊るされた手枷をぼんやりと見つめる。
このとき、亜美にはその輪っかが、一体なにに見えたのだろう。
(もうこんなことは…終わりにしなくちゃいけない────)
おもむろにベッドから起き上った亜美は、近くにあった椅子をその手枷の下まで運ぶ。
(この大きさなら多分…首でも大丈夫…)
亜美は椅子の座面に立ち、手枷のバックルを外す。
(もっと早くこうしてれば…死ぬのは私だけで済んだのに)
少し背伸びをして、手枷を自分の首に巻き付ける。
そしてベルトの穴を一番キツい位置で通すと、亜美は深呼吸をした。
(パパ、ママ…ごめんね。私、がんばれなかった────)
息を止めて、目を瞑る。
これでやっと、この苦しみから解放される────。
(これで私も、パパとママのところへ行ける────)
────そのときだった。
「亜美っ!!なにやってんだっっ!!」
地下室のドアが開き、慎二が慌てて亜美のもとへ駆け寄る。
亜美は咄嗟に椅子から足を浮かせ、そのまま首吊りを図ろうとするも、駆けつけた慎二に抱きかかえられてしまう。
「お、おいっ!こらっ!!…馬鹿な真似はやめろよっ!!」
「やめてっ!!離してっ!!離してよぉ……────」
「ふぅ…。親父に言われてモニターで見といてよかったぜ…危なかったな」
こうして、亜美の自殺は未遂に終わる。
慎二は、ぼう然とする亜美をベッドに座らせると、その肩に腕を回した。
「ま、まぁとりあえず…落ち着こうぜ?な?」
「……シテ」
「ん?」
「…犯して」
「お、おい…今なんて…」
「…私を犯してください」
「なっ……────」
そんな不可解な亜美の言動に、慎二は戸惑いを隠せなかった。
今たしかに、亜美は自ら "犯してください" と懇願したのだ。
これまでにも散々、あたかも亜美が求めているかのような、それらしい言葉を言わせてはきた。
しかしそこに亜美の意思などないことは、それを言わせた慎二が一番よく分かっていた。
事情はどうあれ、たった今自殺を図ろうとしていた亜美がどうしてそんなことを口走ったのか──慎二にはどうしてもそれが理解できなかったのである。