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セイドレイ【完結】
第53章 落日

ねんねんよ おころりよ
坊やよい子だ ねんねしな
生すは母ぞ かえるも母ぞ
よい子だ泣くな おころりよ
ーー
陽が落ち、夜の闇に包まれた廃倉庫。
そこから微かに、そんな子守歌が聴こえて来る。
亜美は、暗闇の中で冷たくなった雅彦を胸に抱き、以前トメから教わった子守歌を口ずさんでいた。
「……おころりよ…。ねぇ、お父様…?」
「私……もういいかなぁ……?」
「今まで何度か死のうとした時はね?」
「私…パパとママのとこに行けると思ってたの」
「バカだよね……だってさ」
「…こんな私が…天国に行けるわけないもん」
「だからね?…お父様のとこに行きたい」
「…行っていい?今ならまだ間に合うかな…?」
「そっちでね、この子と3人で暮らすの」
「地獄の底でも…お嫁さんになれるのかな?」
「そしたら私を……愛してくれる……?」
亜美は、動かなくなった雅彦にそう語りかける。
まるで眠っているかのような、穏やかな雅彦の死面に、亜美の涙が一粒だけ落ちる。
「……私、もう疲れちゃった」
「何より…自分自身に」
「もしかしたらこれが…私の本当の望みだったのかも」
「だから…いいでしょ?」
亜美は、雅彦を縛っていた縄を手に持つと、すぐそばにある柱に括り付け、輪っかを作る。
「…今行くから…待ってて?」
そう呟き、亜美はその輪っかに首を通す。
「お父様……愛してる……」
縄に体重を掛け、自重で絞首しようとした、その時ーー。
外から、けたたましいサイレンの音が聴こえて来る。
(え……?)
徐々にサイレンの音は大きくなり、倉庫の前で停まる。
すぐさま、トタンを叩く音と共に倉庫のドアが壊され、眩しいライトが亜美の顔を照らす。
「…ま、まぶしっ……」
「…警察です!市川さんっ!市川亜美さん!!あっ…居たぞっ!」
そう言って、複数の警官が亜美に駆け寄って来る。
「市川亜美さんですね?…意識は有り、と。お怪我は?…おい、そっちの男はどうだ??」
「…あー、こっちはダメだな」
「市川さん、とりあえず救急車がすぐ来ますのでっ…」
「…嫌」
「…え?市川さん?どうかしましたか?」
「…私、お父様のとこに行くの。お父様が待ってるからっ…行かなきゃっ……」
警官は何も言わず、亜美の肩にそっとブランケットを掛けたーー。
坊やよい子だ ねんねしな
生すは母ぞ かえるも母ぞ
よい子だ泣くな おころりよ
ーー
陽が落ち、夜の闇に包まれた廃倉庫。
そこから微かに、そんな子守歌が聴こえて来る。
亜美は、暗闇の中で冷たくなった雅彦を胸に抱き、以前トメから教わった子守歌を口ずさんでいた。
「……おころりよ…。ねぇ、お父様…?」
「私……もういいかなぁ……?」
「今まで何度か死のうとした時はね?」
「私…パパとママのとこに行けると思ってたの」
「バカだよね……だってさ」
「…こんな私が…天国に行けるわけないもん」
「だからね?…お父様のとこに行きたい」
「…行っていい?今ならまだ間に合うかな…?」
「そっちでね、この子と3人で暮らすの」
「地獄の底でも…お嫁さんになれるのかな?」
「そしたら私を……愛してくれる……?」
亜美は、動かなくなった雅彦にそう語りかける。
まるで眠っているかのような、穏やかな雅彦の死面に、亜美の涙が一粒だけ落ちる。
「……私、もう疲れちゃった」
「何より…自分自身に」
「もしかしたらこれが…私の本当の望みだったのかも」
「だから…いいでしょ?」
亜美は、雅彦を縛っていた縄を手に持つと、すぐそばにある柱に括り付け、輪っかを作る。
「…今行くから…待ってて?」
そう呟き、亜美はその輪っかに首を通す。
「お父様……愛してる……」
縄に体重を掛け、自重で絞首しようとした、その時ーー。
外から、けたたましいサイレンの音が聴こえて来る。
(え……?)
徐々にサイレンの音は大きくなり、倉庫の前で停まる。
すぐさま、トタンを叩く音と共に倉庫のドアが壊され、眩しいライトが亜美の顔を照らす。
「…ま、まぶしっ……」
「…警察です!市川さんっ!市川亜美さん!!あっ…居たぞっ!」
そう言って、複数の警官が亜美に駆け寄って来る。
「市川亜美さんですね?…意識は有り、と。お怪我は?…おい、そっちの男はどうだ??」
「…あー、こっちはダメだな」
「市川さん、とりあえず救急車がすぐ来ますのでっ…」
「…嫌」
「…え?市川さん?どうかしましたか?」
「…私、お父様のとこに行くの。お父様が待ってるからっ…行かなきゃっ……」
警官は何も言わず、亜美の肩にそっとブランケットを掛けたーー。

