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セイドレイ【完結】
第54章 最終章:夢のあと
「病める時も、健やかなる時も、富める時も、貧しき時もーーー、妻として愛し、敬い、慈しむ事を誓いますか?」
「…はい、誓います」
ーー
金木犀の甘く爽やかな香りが漂う大安の日。
どこまでも高く突き抜ける秋晴れの空が、一組の若い夫婦を祝福していた。
この日、貴之の挙式に参列していた亜美は、遠目からかつての恋人が永遠の愛を誓う瞬間を眺めていた。
(2人とも…すごく幸せそう…)
先程式場に着いた際、貴之の両親と顔を合わせた。
お互いに気まずさがあったが、貴之の母が亜美の膨らんだお腹を見て、『あなたもおめでとう』と言ってくれた。
時の流れとは、やはり強大である。
気まずさで言えば、貴之が今も勤める造園業の親方が式に参列していたのだが…亜美はあまり気にしないことにした。
新婦である女性のことは、貴之より歳上であるということくらいしか亜美は知らないが、とても綺麗な人だと思った。
純白のウェディングドレスはマタニティ仕様で、恐らく安定期に入っている頃だろうと思う。
そして、新郎である貴之。
やや光沢のあるグレーのタキシードに身を包んだその姿は、出会った頃よりもぐっと大人びて見えた。
しかし、時折見せるはにかんだ表情はあの日のまま。
亜美の知る、あの優しい貴之の顔だった。
挙式から披露宴へ。
思えば、結婚式に出席するのは初めてのことだ。
人の人生に、こんなにも沢山の人に祝福される日があるのだということを、亜美は今日まで知らなかった。
亜美の目には、その全てが輝いて見えた。
それは、何億光年も彼方にある星の光のようだ。
亜美には手の届かない、遠く、遠くにある輝き。
または、ずっと昔にはすぐそばにあったはずの、過去からの光だ。
記念撮影の際、貴之と少し会話をすることができた。
新婦にも挨拶をしたが、明るい声で『いつでも遊びに来てね』と言ってくれた。
この女性が、貴之と亜美の過去をどこまで知っているかは分からない。
しかし、きっと器の大きい女性なのであろうことは窺えた。
この女性なら、貴之を幸せにしてくれるに違いない。
亜美はそう確信し、2人を祝福した。
そしてその気持ちに嘘偽りは無いことを、亜美は自分の胸に誓い、式場を後にした。
「…あ、もしもし…健一さん?うん、今式場出たとこ。じゃあ、駅までお迎えお願いします。はーい…」
「…はい、誓います」
ーー
金木犀の甘く爽やかな香りが漂う大安の日。
どこまでも高く突き抜ける秋晴れの空が、一組の若い夫婦を祝福していた。
この日、貴之の挙式に参列していた亜美は、遠目からかつての恋人が永遠の愛を誓う瞬間を眺めていた。
(2人とも…すごく幸せそう…)
先程式場に着いた際、貴之の両親と顔を合わせた。
お互いに気まずさがあったが、貴之の母が亜美の膨らんだお腹を見て、『あなたもおめでとう』と言ってくれた。
時の流れとは、やはり強大である。
気まずさで言えば、貴之が今も勤める造園業の親方が式に参列していたのだが…亜美はあまり気にしないことにした。
新婦である女性のことは、貴之より歳上であるということくらいしか亜美は知らないが、とても綺麗な人だと思った。
純白のウェディングドレスはマタニティ仕様で、恐らく安定期に入っている頃だろうと思う。
そして、新郎である貴之。
やや光沢のあるグレーのタキシードに身を包んだその姿は、出会った頃よりもぐっと大人びて見えた。
しかし、時折見せるはにかんだ表情はあの日のまま。
亜美の知る、あの優しい貴之の顔だった。
挙式から披露宴へ。
思えば、結婚式に出席するのは初めてのことだ。
人の人生に、こんなにも沢山の人に祝福される日があるのだということを、亜美は今日まで知らなかった。
亜美の目には、その全てが輝いて見えた。
それは、何億光年も彼方にある星の光のようだ。
亜美には手の届かない、遠く、遠くにある輝き。
または、ずっと昔にはすぐそばにあったはずの、過去からの光だ。
記念撮影の際、貴之と少し会話をすることができた。
新婦にも挨拶をしたが、明るい声で『いつでも遊びに来てね』と言ってくれた。
この女性が、貴之と亜美の過去をどこまで知っているかは分からない。
しかし、きっと器の大きい女性なのであろうことは窺えた。
この女性なら、貴之を幸せにしてくれるに違いない。
亜美はそう確信し、2人を祝福した。
そしてその気持ちに嘘偽りは無いことを、亜美は自分の胸に誓い、式場を後にした。
「…あ、もしもし…健一さん?うん、今式場出たとこ。じゃあ、駅までお迎えお願いします。はーい…」