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セイドレイ【完結】
第10章 胎動
「じゃ、俺は戻るからさ。親父が来るまで監視してろって言われたけど、もう大丈夫だもんな?」
「あ、はい…ご主人様のおかげで…」
「ふへっ。俺のおチンポが亜美の命を救った!もう変な気起こすなよ?」
「大丈夫…です。ありがとうございました…」
そうして慎二は自分の部屋に、亜美は隣りの地下室へ戻った。
(ふう……)
亜美はベッドの上に腰を下ろし、また天井から吊るされた手枷を眺める。
(ごめんね…パパ…ママ……そしてお腹の赤ちゃん……。私はまだ…そっちへは行けない)
わずかながらではあるものの、収穫は、あった。
モニター室の場所、そして予算をケチったのだろうか、その部屋の扉には鍵がついていなかった。
監視カメラが録画した映像の見方、そしてその保存方法。
慎二が操作する横で、その手順は大体把握した。
亜美はこの時、自分を幽閉するこの籠城からの脱出を、初めて本気で考え始めていた。
今すぐには無理であることも、それが困難を極めることも分かっていた。
しかし、死ぬことさえ許されなかったあの瞬間──亜美の中にこれまでとは違った気持ちが芽生えた。
それは、「怒り」という感情。
そして、「闘う」という姿勢だった。
一度ならず二度も捨てようとしたこの命。
そして消えてしまった新しい命。
もう本当にこれ以上失うものはない、そう悟った瞬間、その消えようとしていた灯火が微かに息を吹き返したのだ。
(私は…必ず、いつかここを出る。そして…──)
きっとこれからも、辛いことはあるだろう。
むしろ来週から、想像もし得ない今以上の地獄が待っているかもしれない。
また新しい生命を、無駄にするかもしれない。
それでも亜美は、生きることを選んだ。
生きて、いつかこの籠城を出る──。
亜美はおもむろにベッドから立ち上がると、纏っていた服を脱ぎ、壁一面の鏡の前で自分の姿を見た。
このカラダは、武器になる。
それは、すべてを奪われた少女に唯一与えられた、身を守る盾であり、闘うための剣だった。
その艶めかしい姿を、偶然にもモニター室のパノラマから見ていた一人の男が居た。
マジックミラー越しに少女と目が合う。
明らかにこれまでとは違うその少女の目を見た時、男は言いようのない胸の高鳴りを覚えていたのだった──。