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第1章 そのタクト。

たとえば、今、先生がタクトをもつ手。







生徒らはこうして、そのタクトの動きを
なるべく再現しようとする。



先生のその手が指示すると、吹奏楽の音は
そう動くし
そうするのはすき。



「二小節目からクラリネット。」




たとえばその指示がすごく性的なことで
ここがホテルかどこかで
その手はタクトをにぎるのではなく
私のスカートの中。




「主旋律なんだから、メゾピアノじゃなくてメゾフォルテくらいで吹いて。」



その苛立った声が
違う指示だとしたら？







「対旋律のトロンボーン入って。」

入るのが
私のスカートの中
先生だとしたら。





プリーツスカート、濡れそう。


‐‐‐‐‐‐‐

タクト…指揮棒
クラリネット…西洋の縦笛。黒い。
トロンボーン…トランペットに似ているが、音はスライドさせてかえる楽器。
旋律…メロディ。伴奏でないもの。せんりつ。
対旋律…主旋律と同時に演奏される
もうひとつの旋律。たいせんりつ。
メゾピアノ…音量記号。「やや小さく」というような意味。
メゾフォルテ…音量記号。「やや大きく」というような意味。