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せめて、今夜だけ…
第8章 甘い痛み
「あ……っ」

嫌な汗が背中に滲む。
そのせいか、やけに喉が渇く。
何もかもを飲み込んでしまいたい。

俺が何も言えないまま、時間だけがただただ過ぎていく。
辛い沈黙の中で先に沈黙を破ったのは



『魚塚さん…』



魚月の声だった。





「あ、いや…」





適当な言い訳を考えながら自分の気持ちを押し殺して…。
頭の中がぐちゃぐちゃで何を話していいかわからない。
無意識のうちに頭を掻きながら必死に何かを言おうとするが、頭の中にモヤがかかってるみたいに何も考えられない。








『今から…、会えませんか?』











「―――――――――――っ!」










その一言に、頭の中のモヤが一気に拡がって行く。










は?
魚月…?
今から会う…?








魚月の一言が俺の胸を締め付ける。
ガラにもなくガキみたいに胸が高鳴ってる。
今まで女に誘われてこんなに緊張した事なんてない。




『無理ならいいんですけど…』





無理…?
断る理由なんかあるのか?







「――――――――…」







断る理由なんかない。









今、世界が崩壊するとしても
俺の足がダメになったとしても

何が起きたとしても

俺は、魚月のそばに飛んで行ける。




何を差し置いても、魚月のそばに行きたい。
それで全てを失うことになったとしても…。







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