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せめて、今夜だけ…
第9章 天使と悪魔
「お前を…、困らせるつもりはなかった…」

魚月を困らせたくない。
これ以上、魚月に何かを背負わせたくない。
なのに、俺は…

抑えきれなかった。
自分の中の欲望や感情を。
制御出来そうになかった。


「た、ただ…っ」
「ただ?」


背中を向けたままの魚月。
ふわふわの髪に小さな背中。
抱き締めたら折れてしまうんじゃないかと思うぐらいに、今の魚月は小さく思えた。




「……会いたかった」










絶対、口に出してはいけない言葉。
この一言を口にすれば、魚月をどれだけ困らせてしまうか。
縛り付けてしまうか…。

自分の気持ちを投げつけた瞬間、胸の中にドス黒い何かが拡がって行く。
黒くて、ドロッとした、何とも不快な何かが。





「……そんな、事で…、あそこまで来たんですか…?」
「……本当にすまないと思ってる」





魚月の声が微かに震えている。
怒りを抑えきれず、呆れたような口調に変わって行く。
自分でも自分の行動が愚かすぎて笑えて来る。

「やめて下さい…っ!」

その一言と共に魚月はやっと俺の方を向いてくれた。
俺を睨むその瞳に涙を浮かばせていた。

その涙を見た瞬間、俺は自分がやってしまった過ちや間違いの深さを痛感した。
魚月を、ここまで追い詰めてしまったのか、と。


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