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せめて、今夜だけ…
第9章 天使と悪魔
しかし、魚月に会えて嬉しい俺とは違って魚月の顔はどこか暗い。
それもそうだ。
今夜の事もあるし、人目を気にしてこんな部屋に呼び出したのだから。
楽しい会話になるとは思ってない。
「とりあえず、中に」
「…………。」
魚月に促され俺は部屋の中に入った。
俺の方を振り返る事もないままに、魚月は俺の背中を向けたままだ。
言葉を交わさなくても、魚月の小さな背中を見ればわかる。
その背中に戸惑いや迷いや怒りが滲んでいるのを。
「魚月…」
「何のつもりですか?」
開口一番に魚月の口から出た言葉。
いつもの魚月とは違う強めの口調で。
予想はしていたが、改めて問い詰められると辛いものがある。
俺がしてしまった事なのだから怒られても仕方がない。
「悪かった…」
月並みに、そんな言葉しか出てこない。
理由はどうあれ魚月を困らせ迷惑をかけたことに違いはない。
「悪かったじゃないですよ…。何であんな事…」
あの場は上手く切り抜けられたと思ったが、魚月からすれば生きた心地じゃなかっただろう。
俺があの場所にさえ行かなければ良かったのだ。
「今更、何の言い訳もするつもりはない」
ただ、俺は…
この言葉を口にすれば魚月が困る、と何度も自分に言い聞かせて来た。