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せめて、今夜だけ…
第13章 明けの明星、宵の明星
―――――バタンッ…。
先輩が出て行った後の部屋。
俺1人が残ったこの部屋。
聞こえて来るのは外から聞こえる生活音だけ。
人や車が行き交う音、話し声、笑い声。
そんな音を、まだ熱が残る頭でぼんやりと聞いていた。
そして、先程の先輩の事を思い出していた。
「………。」
ははっ。
冷却シートのお陰で少しは冷静に考えられるようになってるな…。
先輩に抱き締められた感触がまだ体に残ってる。
15年前は、先輩に触れる事もないままにフラれてしまった。
それが、時を越えてこうして先輩と…。
きっと、少し前の俺なら喜んでいただろう。
いや、もしかしたら15年前の仕返しと言わんばかりに、先輩を弄んだかも知れないな…。
なのに、今は…。
あんなに恋い焦がれたはずなのに…。
フラれた時はショックのあまり何も手に付かなかったのに…。
そんな先輩に抱き締められたというのに…。
同情…、それ以外の感情がなくなったかのように思えてしまう。
先輩の声も、抱き締められた感覚も、何一つ響いてこない。
何も感じない。
そのままソファに体を沈め天井を見上げた。
熱がぶり返して体が辛いからじゃない。
先輩に抱き締められても尚、魚月の事しかない自分に呆れてしまっているのだ。
高熱でやられてるせいか昨夜の魚月の感覚がリアルに蘇る。
まるで、魚月を思い出すのはこれが最後かのように。