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せめて、今夜だけ…
第14章 火花
「魚塚君…っ」

俺の体はギュッときつく抱き締められている。

「………っ」





俺も本当にバカだ。
この手を取れば楽になれるとわかってる。
叶わない恋から抜け出せるし、先輩を好きになれば何も問題はない。
誰から攻められる訳でもない、誰からも祝福してもらえる。
堂々と、腕を組ながら外を歩ける。
そんな関係を誰よりも望んでいたのは俺なのに。

先輩を好きになれば…。

「ねぇ、何か言ってよ…」







俺は…、本当にバカな男だ…。








「…すいません、先輩」
「―――――…っ!」









胸の奥から捻り出した声。
その一言を言えば先輩を傷つけてしまうとわかってるのに。
先輩と再会して、これからはいい友人になれたかもしれないのに。
その関係を終わらせてしまう事になるのに。

「魚塚…君…」
「先輩の気持ちには…、応えられません…」

俺は…、悪魔に魂を売ったのだ。
誰に攻められても、誰に裁かれても、俺が愛してる女はただ1人。
叶わない恋、辛い恋だとわかっていても、魚月から離れるなんて出来ない。

例えそれが、魚月の望みじゃなくても…
どんな手段を使ってでも…。

「あなた…、本当に…」
「………」

先輩の腕がゆっくりと俺の体から離れて行く。
呆れて言葉も出ないと言ったところだろう。


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