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せめて、今夜だけ…
第14章 火花
―――――「好き」
背中で聞こえた、小さなか細い声。
あの日、俺が風邪をひいた時に感じたのと同じ感覚。
「先ぱ…い?」
後ろから、俺の体に手を回し、俺の胴体を強く抱き締める先輩。
呆然とする俺の背中から聞こえて来た声。
今のは…、何だ?
聞き間違えか?
一気にいろんな事が起こった為に俺の頭のキャパを越えてしまっている。
とりあえず、この状況は…
先輩が俺に抱きついてて、今俺に…。
「好き…、魚塚君が…っ」
さっきよりも更に聞き取りやすい声で、背後からはっきりと聞こえたその台詞。
先輩が、俺を…?
「15年前…、私からフッた癖にね…。勝手な事をしてるって自分でもわかってる…っ」
「………。」
一瞬、何が起こったか理解出来なかったが、思えば3日前のあの瞬間に俺は気付いていたのかも知れない。
いや、気づかないふりをしていた。
先輩の気持ちから目を反らしたかったのかも知れない。
俺には15年前の事なんて最早どうでもいいこと。
今更あの夏の事を責めるつもりなんかない。
ただ…、魚月以外の女性になんて、もう興味が沸かない。
現にこうして先輩に抱き締められているというのに、俺の心も心臓もちっとも乱れない。