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せめて、今夜だけ…
第15章 人魚は海に還る
魚月…。
魚月…っ。


どんなに想っても、どんなに心が通じ合っても、もう…。
いや、元より魚月は翔太のものだった。
俺の出る幕なんて最初からなかったんだ。

魚月は、俺のものじゃない。
俺のものにはならない。



いや…、魚月…
今なら…



想いが通じた今なら、俺は何もかもを捨ててしまえる。
魚月がいるなら、何もいらない。
何も…。




「ん…、ぅっ。魚塚さん…」

これ以上、魚月に負担をかけてはいけない。
魚月にこれ以上、板挟みの苦しみを与えたくない。
なのに、頭ではわかっているのに心は裏腹だ。
魚月が欲しい。
今夜だけは、魚月が欲しい…っ。



「魚月…」

想いが…、叶ったんだ…。
例えもうすぐ、魚月が誰かと結婚するとしても、今夜だけは…。


俺の胸の中で涙目のまま俺を見上げる魚月。
その表情を見てるだけで、理性が吹っ飛びそうになる。

「今夜は…、このまま―――――――」







叶わない恋でもいい。
悲しい結末でもいい。
ただ、今夜だけは…、そう思っていた。

せめて、今夜だけは…、魚月以外のことは考えたくなかった。
何もかもを忘れて、ただ魚月の事だけを…。





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