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せめて、今夜だけ…
第16章 泡沫に泳ぐ魚



初めて魚月に会ったのはSirèneという店だった。
最初は「可愛い」と思ったが、最後の最後で嫌な女だと思った。
2度と関わりたくないとさえ思った。

2度目は、近所のドラッグストア。
翔太のシェービングの替刃を買ってるところに遭遇した。
まさかのすっぴん、普段着の魚月に出会した。
ホステスなのにすっぴんを見られるなんて、死活問題だろうな。

3度目は、俺から会いに行った。
Sirèneで他愛ない話しをして、魚月に婚約者がいる事を知った。
なのに、その夜はそのまま魚月を…。


思えば、あの夜から俺の運命の歯車は狂い出したのかも知れない。




「あっ、あ…っ」

俺と魚月は、そのまま食事をしたホテルに戻り部屋を取った。
レストランは込み合っているが、部屋は案外すんなりと取ることが出来た。
部屋に入るなり、シャワーも浴びずに魚月をベッドに押し倒した。
例え一瞬でも、離れる時間を惜しむかのように。

魚月のスヌードとコートを脱がし、真っ赤なドレスの背中のファスナーもずらして。

2人分の重味でベッドが軋む。
お互いの体をベッドに沈め、お互いの衣類を脱ぎ去って行く。

衣類が破れようが皺になろうがどうでもいい。
今は、何もかもがどうでもいい。

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