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せめて、今夜だけ…
第4章 飢餓
気にすることはない。

いつも通りに過ごしていれば自然と忘れる。

あの高校生の時みたいに。

先輩に振られた、あの日みたいに、嫌なことは全部忘れて行く。


いつものように、会議に出て、海外に発注をかけて、書類の整理をして…、そうして行くうちに忘れるさ、あんな些細な事。



この時、俺は意図的にあの女の事は考えないようにしていた。
いや、考えたくなかった。
あの時感じた、身体中がチリチリと焦げるような不快感を思い出したくなかったからだ。
あの女の顔を思い出す度に、嫌な予感が脳裏を過る。

何とも説明しがたい不快感。
その不快感を払拭するかのように、俺は仕事に打ち込んだ。
そうでもしてないと、嫌な予感に胸を押し潰されそうになるからだ。



―――――「はぁ…。やっと終わったか…」

腕時計を見ると、時刻は19時。
定時を大きく回っている。

本来の業務に+αで働いたからか頭が痛い。
いろんな数字を見つめてたせいで頭の中はぐちゃぐちゃで今にもショートしそうだ。
他の社員はとっくに帰ってて、今この部署に残ってるのは俺だけ。


さて、やることもやったし、さっさと帰るか。
鞄の中に荷物やら書類をしまっていると

「おい、魚塚…」
「うわっ!!」

いきなり幽霊のように俺の背後に現れた桐谷。

「な、何だよ、桐谷…」

こいつ、まだ残ってたのか?
俺は自主的に残業をしてて、もう他の社員はとっくに帰ってるというのに、こいつは何をしてるんだ?


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