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せめて、今夜だけ…
第18章 彼方
「おい、魚塚…、どうしたんだよ、その顔…」
次の日、出社早々に俺の顔を見て驚く桐谷。
まるで見てはいけないものを見たかのような顔。
そして、腫れ物に触るかのように恐る恐る俺にそう問いかけてきた。
それもそのはず。
俺の左頬には明らかに誰かにビンタされたであろう手形がくっきりと残っているのだから。
「あぁ、ちょっとな…」
「いや、ちょっとな、で済むレベルじゃねぇぞ、それ…」
痛々しいぐらいに真っ赤に残る手形。
それは、説明しなくても大体察しがつく。
大の男の顔にビンタの痕。
女性問題しか有り得ないだろう。
昨夜、先輩を抱けないままただひたすらに謝る俺に腹を立てたのか
俺の頬をひっぱたき部屋を出て行ってしまったのだ。
俺は追いかける事も出来ず寝室で呆然とするしかなかった。
まぁ、ぶたれても仕方のない事をしてしまったのだから文句はない。
力任せにぶたれたせいか口の中も切ってしまった。
口いっぱいに広がる鉄臭い味。
「今日は来客予定もないし、大した事ないさ」
「そうかも知んねぇけど…」
俺の仕事は主にデスクワーク。
不特定多数の人間と関わる営業でもないし、今日は来客予定もない。
この無様な顔を他人に見られる心配はない。