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第18章 彼方

オロオロと心配する桐谷を無視し、俺は自分のデスクでさっさと仕事の準備を始めた。
桐谷だけじゃなく、うちの部署全員が俺の顔の手形を見てヒソヒソと何かを話しているのがわかった。

「修羅場ってやつか、それ？」

まぁ、ビンタをされるぐらいなのだがら、決して良い状況ではないだろうな。

「まぁ、修羅場と言えば修羅場だな…」



さすがに、安西さんにぶたれたという事は桐谷には隠して置いた方が良さそうだ。




あの後、先輩からは何の連絡もなかった。
何か一言、罵るようなメッセージでも送られて来るんじゃないかと身構えていたが、結局先輩からは何のアクションも起こらなかった。
さすがにあの状況の後にメッセージなんて来ないか…。


俺は結局、先輩を傷つけてしまった。
魚月がいなくなった寂しさから先輩に甘え過ぎてしまっていた。
先輩の事を女性として見るのは無理だと、以前にそう断ったはずなのに。

それなのに、先輩に甘えすぎたバチが当たったのだと思った。
このビンタは、優柔不断な俺へのバチだ。

さすがにこちらからメッセージを送るのは無神経過ぎるか…。
これはこのままそっとして置いた方がいいかも知れないな。

それに、俺は気づいてしまった。
魚月がいなくなった穴は、他の誰かでは埋められないということを…。