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せめて、今夜だけ…
第5章 恋心
―――――女と酒を呑みたいなら適当に誰かを呼び出せばいいし、バーやラウンジなんてそこら辺にある。
流れのまま、気ままに遊んで来たのに。
「お久しぶりですね、魚塚さん!」
「…嫌味か?」
まるで錆びたロボットのようにぎこちない表情を浮かべてカウンターに座る俺。
そして、俺の目の前には、さすがプロと言うべきか柔らかな笑顔を浮かべる魚月。
「だったら嫌味を言われないように毎日来て頂かないと♪」
クスクス笑いながら俺のウィスキーを作っている。
…つーか、何やってんだよ、俺。
わざわざ自宅とは逆方向のこの店に来てしまうなんて。
魚月とドラッグストアで遭遇したのが昨日。
今日、仕事が終わると桐谷の誘いも無視しこの店に来てしまったのだ。
一昨日の夜に見つけたラウンジ、Sirène。
細かく言えば、一昨日の夜にこの店で魚月に会って、昨日はドラッグストアで遭遇して、今夜もこの店で魚月と会ってる。
こんだけ顔を合わせて置いて「お久しぶり」なんてよく言えたものだな。
店に付くなり、魚月を指名した。
この女にはまだ言いたい事がいろいろあるからだ。
ラウンジで誰かを指名するなんて初めての経験だ。
俺は酒さえ呑めればそれでよかったが、この女と話を付けるにはこの方法しかない。