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せめて、今夜だけ…
第25章 水音
半年前の冬は、魚月と翔太の門出だと思って身を引いた。
これ以上一緒にいることは出来ない、と。
これ以上俺と一緒にいると魚月が苦しむことになる、と。
でも今度は違う。

「俺の事をもう忘れるっていうなら来なくていい。でも…、少しでも俺の出発を見送ってくれる気があるなら――――――」






魚月の意思で俺を忘れるなら、俺にはもう止める権利はない。
俺にはもう、どうする事も出来ない。






「…………。」

相変わらず、背後からは何も聞こえない。
魚月がいるかいないかもわからない。
それを確認するのが怖くて振り返れない。






でも、俺の中にいる魚月は
悲しいぐらいにあの日のままなんだ。
俺の名前を呼ぶ、あの日の魚月のまま。






相変わらず、風はずっと吹いている。
優しく俺の頬を掠める。
乾いた風が何もかもを吹き飛ばし、乾かしてくれる。

ただ、気のせいかわからないが
少しだけ、追い風を感じた。









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