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せめて、今夜だけ…
第26章 人魚と王子
山の空模様は変わりやすい。
さっきまであんなに明るかったのに、日が暮れるのが早く感じる。
――――「大人1人、素泊まりで5000円になりますね」
「はい」
魚月の実家のある森から出た俺は町の方へと戻って来た。
魚月を待つために駅前のビジネスホテルに泊まることにした。
駅前のビジネスホテルは1つしかないようだし、もし魚月が来たとしても迷うことはないだろう。
フロントで白髪の老人が俺を迎えてくれた。
この老人が1人で経営してるのだろうか?
パッと見は営業してるかどうか甚だ怪しい雰囲気のホテルではあったが、空室が残っていたのは幸いだな。
ホテルの帳簿に名前と住所を記入していると
「今日はご旅行か何かですか?」
穏やかな顔をした老人が俺に話しかけてきた。
「え、えぇ、まぁ…」
「今朝、見かけない若い男が駅から出てきたって騒ぎになってたんですわ~。いや~、お兄さんの事でしたか~」
……あぁ、駅を下りたときから感じてた視線はそれか。
田舎ならではの閉鎖的気質というやつか?
余所者は珍しく見えるのだろうか?
それとも不審者に見えたのだろうか?
「騒ぎにですか?」
「こんな田舎にお兄さんみたいなハイカラな男前が来たらそりゃ~目立ちますわ」
ハハッと笑った男性。
ハイカラな男前、ね。