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せめて、今夜だけ…
第26章 人魚と王子
部屋の鍵を貰った俺は階段を上り、部屋へと向かった。
俺の部屋は2階。

建物自体は5階まであるらしいが、今日は平日だし、俺以外の客はほとんどいないに等しいらしい。




――――――キィー…。

部屋の鍵を開けて扉を開くと、立て付けが悪くなった扉が音をたてながらゆっくりと開いていく。

そこは簡易的なベッドと鏡付きのデスクがあるだけ。

一応大きな開放的な窓は付いているが、窓から見えるのは漆黒の闇だけ。
都会的な美しい夜景など期待はしていないが。

ま、どうせ後は眠るだけだし、今の俺にはこの部屋は充分過ぎるぐらいだ。

そう、後は食事を済ませて眠るだけだ…。




そうでも思っていないと心が保たない。




俺は荷物を床に放り投げるとベッドに腰を下ろした。

はぁ、今日は疲れた。
電車に揺られながらの長旅。
駅に着いたら着いたで森の中一歩手前まで徒歩。
肉体的にも精神的にももうくたくただ。

それに、くたくたなのは移動に疲れただけではない。

少し会わない間にすっかり様変わりしてしまった魚月の事。
そして、その変わりようを粒さに目の当たりにしてしまった事のショック。

「はぁ…」

大きく後ろに倒れ込み疲れた体をベッドに沈めた。


でも、あれは魚月の本心じゃない。
俺の知ってる魚月は、あんな女じゃない。


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