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せめて、今夜だけ…
第27章 海底、奥深く…
「自分と婚約破棄した女が、別れた直後に魚塚さんと付き合ってるのがバレたら、魚塚さんに迷惑がかかってしまう…。私達の関係を怪しんで、何もかもがバレてしまう…」


そこまで聞かされた俺は、ようやく魚月の気持ちがわかった。
いや、本当はもっと早く気づくべきだったんだ。





まさか、魚月が何も言わずに実家に帰ったのは、俺の為?





「私も…、早く魚塚さんを忘れたくて…。でも、東京にいたらいつか魚塚さんに出会ってしまいそうで、こ、怖くて…」








何が魚月の事なら何でもわかる、だ。
俺は何もわかっていなかった。
魚月の心の痛みや深さ…、俺は何もわかっていなかった。
魚月の嘘は見抜けても、魚月の本心に気づけなかった。

「なのに、何で…?」
「え…?」
「魚塚さんを忘れたくて実家に帰ったのに…。工場を建て直す為に必死で忙しくしていたのに…」



魚月の泣き声が、可愛くて…。
その声でそんな健気な台詞、吐かないでくれ。


「なのに、何でよぉ…」


頼むから…。
これ以上俺を煽らないでくれ…。
誘わないでくれ…。



「何で、会いに来ちゃうんですか…?」



忘れる?
忘れられるはずがないだろう。
俺がそうであったみたいに。
必死に忙しいふりをして忘れようとしたけど、何をどうしても忘れられそうにない。

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