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せめて、今夜だけ…
第7章 夜明けのコーヒーを
朝、とても朝食を食べれる気分じゃなかった俺は、朝食も食べずコーヒーも飲まず、すでに乾いているスーツを着てホテルを出ることにした。
ホテルのクリーニングなんて、数時間で仕上がるはずもないし、恐らくホテルに備え付けの乾燥機で乾かしたんだろう。
フロントの人間に聞くと、魚月は俺が起きる少し前にチェックアウトしていたらしく、宿泊費も清算済み。
どこまでも周到な女だな。
―――――「おい、魚塚」
デスクに付くなり、ニヤニヤした桐谷が俺に話しかけてくる。
朝っぱらからこいつの顔を見ると、現実に戻ったんだなと思い知らされる。
「何だよ…」
「何だよじゃねぇよ、つれねぇなぁ」
こっちは2時間ぐらいしか寝てなくて睡眠不足気味なんだよ。
そこに桐谷のテンションは正直きつい。
しかも、こいつがニヤニヤしながら話しかけてくる時は決まって嫌な予感がする。
「で、何の用だ?」
「昨日はどこに行ってたんだ?ん?」
「昨日?」
「お前昨日、会社が終わるなり急いで帰ったじゃねぇか」
…あぁ、ほら。
やっぱり、今1番聞かれたくないことだ。
「別に」
「別にって何だよ」
昨日は、Sirèneに行って魚月に文句を言ってやりたかったんだ。
退社後、一目散にSirèneに向かったのだ。