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せめて、今夜だけ…
第7章 夜明けのコーヒーを
あの時、俺は確かに魚月に対して腹を立ててた。
魚月に文句を言ってやりたかった。
なのに、気づけば魚月と…。

でも、思い出したくない…。

身体中には今でも昨夜の微熱が残ってるのに、魚月の姿はなく
残ってるのはシーツと身体中に残る魚月の香りだけ。
その香りだけでも、昨夜の情事を生々しく思い出してしまう。

こんなんじゃ今日1日仕事に集中出来ない。

「ごちゃごちゃ言ってねぇで、さっさと仕事しろよ」

昨夜の事はもう忘れよう。
忘れなくちゃいけない。

それに、俺には大事な仕事がある。

「つーかさぁ、お前昨日どっかに泊まったの?」
「はぁ?」

「だって、昨日と同じネクタイだし、いつものトニックの匂いもしねぇから」





「――――――――っ」





忘れなくちゃいけない。







いつもそうしてきたんだ。
1人の女に深入りせず、家庭のある女には手を出さない。
そうやって今まで遊んで来たし、割り切って来たんだ。

女は魚月だけじゃない。
きっと魚月は、あの婚約者と結婚して、それなりに上手くやって行くだろう。

たかだか数回会っただけ、体を重ねたのは一回だけの女の心配なんかすることはない。

昨夜の事は、少し幸せな夢を見てただけ。
すぐに忘れてしまうはずだ。

大丈夫、時間が経てば消えていく。


身体中に残るこの微熱も。
胸の中の不快感も。
身体に染み付いた魚月の香りも。




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