この作品は18歳未満閲覧禁止です

- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
最後の恋に花束を
第1章 四年ぶりの春

彼が私をエスコートするかの様に店のドアを開ける。
すると、店員は彼の顔を見るなり " お待ちしておりました " と爽やかな笑顔で予約席まで案内してくれた。
「 結構来るの? ここ。」
顔見知りのようなその対応に驚きつつ、上着をハンガーに掛けながら私は彼に問いかけた。
『 んー まあね。』
その適当な返答に、ふぅん…と簡単に頷く。
そうこうしていると、店員さんが乾杯酒のスパークリングワインを持ってきてくれた。
『 えーと…今日は何祝いだっけ? 』
「 久し振りの再会祝いじゃない? 」
『 いやいや、違うだろ〜。ほれ、見せてみ? 』
冗談を言い合うかのように笑う彼。
見せてみ?と左手の薬指を指差す。
恥ずかしながらも、何のことかは分かっていた。
「 ん〜… はいっ 」
言われた通り左手を差し出すと、薬指には先日恋人から貰ったばかりの婚約指輪が輝いていた。
『 おー…いいじゃん。割とシンプルで 』
本当にそう思っているのか、思っていないのか分からない表情で彼はそう言った。それはよく見る表情でもあり、見たくない表情でもあった。
「 あんまり派手だと、付けるのも恥ずかしいからね… 」
『 ははっ、可奈はそうだよな 』
まるで、私のことを良く知っている様に話す彼。側から見れば、恋人同士と思われてもおかしくない。けれど、彼との関係は " 友人 " だ。
" とりあえず、婚約 おめでとう "
彼は微笑みながらそう言って、私の右手に握られたグラスと自分のグラスを チンッ と鳴らした。

