この作品は18歳未満閲覧禁止です

- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
最後の恋に花束を
第5章 大学一年の春

『 … な 』
『 … 可奈 』
「 … んっ、」
私を呼ぶ声が聞こえた気がして、薄っすらと重い瞼を開ける。そこには私を見つめる遙の姿があった。まだ寝癖が付いていて、上半身だけを起こして私を見つめている。
「 … おはよ 」
なんだかその姿が微笑ましく思えて、頬を緩めながら挨拶をした。すると彼もニコリと微笑んで " おはよ " と返してくれる。
『 さすがに俺ら寝すぎじゃね? 』
苦笑いしながらそう彼が言うので、時計に視線を向けると正午を過ぎていた。思わず私も上半身を起こした。
「 …わっ、寝すぎだ。帰らないとっ… 」
『 今日なんか予定あんの? 』
不意にそう言われて起きかけの脳をフル回転させた。今日は土曜日。新歓の翌日は何も予定を入れていなかったことを思い出す。
「 や… 今日は何も予定無い… 」
『 お、良かったじゃん。予定無くて。』
「 ん… よかった… 」
遙は布団から出る様子が無く、まだ寝足りない様子で大きな欠伸をしていた。
「 でも、私… 着替えて帰るね。」
『 … そ?じゃあ駅まで送る 』
「 ん… 一人で大丈夫!昨日から迷惑かけてるし… 」
どこまでも優しい彼に申し訳なくなり、この日は一人で帰ることにした。ベッドから降り早々に支度を済ませる。私が彼の家を出る頃、遙はまだスウェット姿のままだった。
「 本当、助かりました… ありがとね 」
『 おー。また何かあれば、いつでも 』
「 ふふっ、じゃあ、またね 」
遙は右手を挙げて微笑む。
私も遙の真似をして右手を挙げる。
少しだけ寂しい気持ちを押し殺して、笑顔で玄関で別れを告げた。
この時はまだ。
友達と別れる寂しさが。
少しだけ、少しだけ。あるだけだった。

