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エメラルドの鎮魂歌
第5章 青い鳥の唄
「…藍…」
藍の美しい漆黒の瞳はきらきらと光り、その頬は薔薇色に輝いていた。
強い意志と希望…そして青山への信頼感を感じさせる確かな眼差しであった。
「…藍…。君は、大人になったんだね。
そんな風に、後輩のことを思い遣れるようになって…」
郁未が感極まったように声を詰まらせた。
そして藍に歩み寄ると、その艶やかな黒髪を優しく撫でた。
「…初めて君に会った時、君は怯えた野獣の子どもみたいだった。警戒心が強くて、いつも人を睨んで…そして笑顔がひとつもなかった」
やくざに脅され、窃盗集団で働かされていた藍は人を…特に大人の男を信用していなかった。
その凍えた頑なな心を、郁未は少しずつ解きほぐし、愛情で優しく溶かしていったのだ。
「嵯峨先生が、俺を温めてくれたんだよ…。
誰も信じられなかった俺を…全てに絶望していた俺に優しく声をかけてくれて、抱きしめてくれて…人生は生きるに値するものだと教えてくれた…」
…藍はぼろぼろのなりをして、身体は殴られた痣だらけだった。
けれど、古びたスケッチブックと使い古した鉛筆を大切そうに肌身離さず持っていた。
「良かったら、見せてくれる?」
そっと尋ねると、一瞬口元を引きむすんだが、すぐにスケッチブックを郁未に差し出した。
郁未は、眼を見張った。
…スケッチブックは、夥しい絵で埋め尽くされていた…。
それは貧しく悲惨な境遇の少年の憧れや夢…美しいもの、光り輝くもの、幸福なもの…すべてが迸る情熱で描かれた心を打つ魂の絵だった。
その絵を見ながら、郁未は声を震わせた。
「…素晴らしい…素晴らしいよ…!君の絵は素晴らしい!」
自分の絵を見せたことも…また褒められたこともなかった藍は驚いた。
そんな藍を郁未は強く抱きしめた。
「…君は絵を描き続けるんだ。君の絵は君に生きる力を与えるだろう。
…それが希望への道しるべになるんだよ…」
…藍の暗闇に閉ざされた心に、初めて一筋の光が射した瞬間であった。
藍の美しい漆黒の瞳はきらきらと光り、その頬は薔薇色に輝いていた。
強い意志と希望…そして青山への信頼感を感じさせる確かな眼差しであった。
「…藍…。君は、大人になったんだね。
そんな風に、後輩のことを思い遣れるようになって…」
郁未が感極まったように声を詰まらせた。
そして藍に歩み寄ると、その艶やかな黒髪を優しく撫でた。
「…初めて君に会った時、君は怯えた野獣の子どもみたいだった。警戒心が強くて、いつも人を睨んで…そして笑顔がひとつもなかった」
やくざに脅され、窃盗集団で働かされていた藍は人を…特に大人の男を信用していなかった。
その凍えた頑なな心を、郁未は少しずつ解きほぐし、愛情で優しく溶かしていったのだ。
「嵯峨先生が、俺を温めてくれたんだよ…。
誰も信じられなかった俺を…全てに絶望していた俺に優しく声をかけてくれて、抱きしめてくれて…人生は生きるに値するものだと教えてくれた…」
…藍はぼろぼろのなりをして、身体は殴られた痣だらけだった。
けれど、古びたスケッチブックと使い古した鉛筆を大切そうに肌身離さず持っていた。
「良かったら、見せてくれる?」
そっと尋ねると、一瞬口元を引きむすんだが、すぐにスケッチブックを郁未に差し出した。
郁未は、眼を見張った。
…スケッチブックは、夥しい絵で埋め尽くされていた…。
それは貧しく悲惨な境遇の少年の憧れや夢…美しいもの、光り輝くもの、幸福なもの…すべてが迸る情熱で描かれた心を打つ魂の絵だった。
その絵を見ながら、郁未は声を震わせた。
「…素晴らしい…素晴らしいよ…!君の絵は素晴らしい!」
自分の絵を見せたことも…また褒められたこともなかった藍は驚いた。
そんな藍を郁未は強く抱きしめた。
「…君は絵を描き続けるんだ。君の絵は君に生きる力を与えるだろう。
…それが希望への道しるべになるんだよ…」
…藍の暗闇に閉ざされた心に、初めて一筋の光が射した瞬間であった。