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エメラルドの鎮魂歌
第7章 木漏れ日の道
青山史郎が予期せぬ同伴者を伴い軽井沢の屋敷を訪れたのは、12月に入ったばかりの良く晴れた昼下がりのことであった。

「…どういうおつもりですか?青山様」
彼の同伴者は、広いエントランスホールに飾られた歴代の当主と夫人が描かれた肖像画を興味津々で見て回っている。
それを横目に、八雲は青山に囁く。
「なぜ、彼をここにお連れになったのですか?
…大体貴方は、彼に関しても勝手に養子になどなさって…。
私は監視をして欲しいとお願いしたのですよ。
養子にしろなどと申した覚えはありません」
彫像のように完璧に整った貌を顰める八雲の肩に手を置き、青山は朗らかに笑う。
「まあまあ…。…柔よく剛を制すと言うじゃないか。
…それに、彼が私の養子になった方が君の大切な瑞葉様のライバルは一人消えるのだよ。
感謝してほしいくらいだね」
にやりと笑い、男性的な眉を上げた青山を八雲は鬱陶しそうに睨む。

「ねえ!執事さん。このひとが俺のお父さん?若いから分からなかったよ」
青山の同伴者…青山藍は屈託無く八雲に尋ねる。
八雲は、少し戸惑いながらも藍の方にゆっくりと向かった。
「…はい。一番右側に飾られているのが、先代伯爵の肖像画でございます」
…黒い燕尾服姿の先代伯爵は、貴族の品の良さと伊達男ぶりに溢れて描かれていた…。
「へえ…。若い時は結構いい男だったんだね。
俺が知っているのはもうすっかり爺さんになってからだからなあ…」

「…左様でございますか…」
愛人の子ども…しかもお家騒動に巻き込まれ、母親を亡き者にされた子どもとは思えないほどに無邪気な明るさに満ちている藍を、八雲は驚きの眼差しで見つめた。
…藍のことは調査書では見知っていたが、直接会うのは初めてだったのだ。

「うん。俺と暮らしてたのは亡くなる前だったし、本当に具合が悪くなってからはお父さんは本家に連れていかれたから、あんまり記憶はないんだけどね」
まじまじと肖像画を眺める美しく整った横顔を感心したように見つめる八雲に、青山はそっと囁いた。
「とてもいい子だろう?…この子は味方にしておいた方が、君の役には立つと思うがね」

八雲は深い瑠璃色の瞳を一瞬眇めたが、やがて諦めたように小さくため息を吐いた。
そして改めて二人に向き直り、恭しく手を差し伸べた。

「…どうぞこちらに。瑞葉様にご紹介いたします」
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