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エメラルドの鎮魂歌
第7章 木漏れ日の道
…激しい情事ののち、瑞葉はまるで魂が抜けた人形のように、寝台に横たわっていた…。
男に放たれた夥しい牡液が、その透き通るように白い肌に点在し、ランプの光に煌めいていた。
「…ひどい…八雲…どうして…」
瞬きもせぬエメラルドの瞳から、透明の涙が溢れ落ちる。
抱き上げ、それを愛おしげに唇で吸い尽くす。
艶やかな蜂蜜色の長い髪を優しく掻き上げ、その瞳を覗き込む。
「…私は謝りませんよ」
「…八雲…」
「私は本来の貴方を、藍様の前に曝け出して差し上げただけです。
…感じやすくて淫らで男に従順で欲しがりで…けれど誰よりも美しく清らかな…。
こんなにも美しいひとは、私だけのものだ」
瑞葉は紅い唇を震わせる。
「…分かっているくせに…僕はお前のものだ…僕はお前を愛している…お前と離れて、パリになんて…」
「…少しもお考えにはならなかったのですか?」
「…え…?」
細く儚げな眉が寄せられる。
八雲の深い瑠璃色の瞳が、瑞葉を射抜く。
「…私から離れたいと…私の愛から離れて、自由になりたいと…少しもお考えにはならなかったのですか?」
「…八雲…」
咎める訳ではなく、穏やかに彼は続けた。
「…貴方は密かにそれを望んでおられたのではありませんか?藍様なら…あの方ならば、ご自分を私から解き放ってくれると…」
「…そんな…そんなこと…」
否定する声は弱々しかった。
けれど、八雲はそれを責めはしなかった。
大きな美しい両手で、瑞葉の貌を包み込む。
…先ほどまでの冷酷な仕打ちが嘘のように、慈愛に満ちた眼差しと口調で語りかける。
「…私は、貴方のすべてが欲しいのです。
貴方を誰かと共有する気はありません。
ですから私か藍様か…選んで頂きたかったのです。
貴方ご自身で…」
「…八雲…」
瑞葉は、八雲の手に手を重ねる。
「…僕は…とうにお前を選んでいたよ…。藍さんは…僕の憧れだった。…けれど彼は和葉と同じだ。
皆、僕から旅立ってゆく…。
…僕は、ここにいるよ。お前と…いつまでもここに…。
それが僕の運命だ…」
諦観に満ちた寂しげな面差し…。
八雲は堪らずに、抱き竦める。
絞り出すような愛の言葉を告げ、唇を奪う。
「瑞葉様…愛しています…!」
…雁字搦めの愛の束縛の中、脳裏に浮かんだのは最後の藍の哀しみに満ちた眼差しだ。
…もう…会えない…。
僕の穢れない眩しい光…。
瑞葉はそっと、眼を閉じた。
男に放たれた夥しい牡液が、その透き通るように白い肌に点在し、ランプの光に煌めいていた。
「…ひどい…八雲…どうして…」
瞬きもせぬエメラルドの瞳から、透明の涙が溢れ落ちる。
抱き上げ、それを愛おしげに唇で吸い尽くす。
艶やかな蜂蜜色の長い髪を優しく掻き上げ、その瞳を覗き込む。
「…私は謝りませんよ」
「…八雲…」
「私は本来の貴方を、藍様の前に曝け出して差し上げただけです。
…感じやすくて淫らで男に従順で欲しがりで…けれど誰よりも美しく清らかな…。
こんなにも美しいひとは、私だけのものだ」
瑞葉は紅い唇を震わせる。
「…分かっているくせに…僕はお前のものだ…僕はお前を愛している…お前と離れて、パリになんて…」
「…少しもお考えにはならなかったのですか?」
「…え…?」
細く儚げな眉が寄せられる。
八雲の深い瑠璃色の瞳が、瑞葉を射抜く。
「…私から離れたいと…私の愛から離れて、自由になりたいと…少しもお考えにはならなかったのですか?」
「…八雲…」
咎める訳ではなく、穏やかに彼は続けた。
「…貴方は密かにそれを望んでおられたのではありませんか?藍様なら…あの方ならば、ご自分を私から解き放ってくれると…」
「…そんな…そんなこと…」
否定する声は弱々しかった。
けれど、八雲はそれを責めはしなかった。
大きな美しい両手で、瑞葉の貌を包み込む。
…先ほどまでの冷酷な仕打ちが嘘のように、慈愛に満ちた眼差しと口調で語りかける。
「…私は、貴方のすべてが欲しいのです。
貴方を誰かと共有する気はありません。
ですから私か藍様か…選んで頂きたかったのです。
貴方ご自身で…」
「…八雲…」
瑞葉は、八雲の手に手を重ねる。
「…僕は…とうにお前を選んでいたよ…。藍さんは…僕の憧れだった。…けれど彼は和葉と同じだ。
皆、僕から旅立ってゆく…。
…僕は、ここにいるよ。お前と…いつまでもここに…。
それが僕の運命だ…」
諦観に満ちた寂しげな面差し…。
八雲は堪らずに、抱き竦める。
絞り出すような愛の言葉を告げ、唇を奪う。
「瑞葉様…愛しています…!」
…雁字搦めの愛の束縛の中、脳裏に浮かんだのは最後の藍の哀しみに満ちた眼差しだ。
…もう…会えない…。
僕の穢れない眩しい光…。
瑞葉はそっと、眼を閉じた。