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エメラルドの鎮魂歌
第8章 エメラルドの鎮魂歌 〜終わりの序曲〜
…それから、五年の月日が瞬く間に過ぎていった。
日本は勝算のない戦争の渦中にあった。
東京には空襲が繰り返されるようになり、長野にも多くの疎開者が移り住むようになった。
ここ、軽井沢の別荘地にも東京から難を逃れ移住する貴族たちが増えてきた。

しかし、薫子を始め篠宮伯爵家の人々は久我山の屋敷を離れようとしなかった。
「私は逃げません。
例え、空襲で焼け死ぬことになろうとも、私は自分の城を明け渡したりいたしません。
敵に屈することなく、最後まで貴族の誇りを持って死んでゆきます」
そう宣言し、家族の者が疎開することも禁じた。

…離山にある瑞葉の屋敷にも僅かな変化は起こっていた。
軍の徴用に料理人とメイド、庭師は召集され解雇しなくてはならなくなった。
広い屋敷には、瑞葉と八雲のみが残った。

八雲に召集令状が来ることはなかった。
海軍士官となった和葉が、大叔父の内務大臣に口を聴き、八雲に召集令状が行かないように根回しをしたらしいと聞いたのは、最近のことであった。

感謝の意を述べた八雲に、海軍の白い軍服をスマートに着こなした和葉は明るく笑った。
「お前がいなくなったら、その日が兄様の命日になってしまうからね。
お前のためじゃない。すべては兄様のためだ」


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