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エメラルドの鎮魂歌
第8章 エメラルドの鎮魂歌 〜終わりの序曲〜
客間から見える庭園は、少しだけ様変わりしていた。
南側の芝生が潰され、広い菜園が造られていた。
物珍しげに眺めている和葉の背中に涼しげな声が掛かる。
「昨年から野菜作りを始めました。
馬鈴薯、薩摩芋、人参、南瓜…夏野菜はトマト、胡瓜、ナス…土や陽当たりが良いせいか、良く育っておりますよ」
驚き、目を丸くして振り返る。
「お前が菜園を?信じられない!」
澄まし顔で、バカラのグラスにブランデーを注ぐ。
「今はまだ千賀子様のご実家からご援助がございますが、このような状況下です。いつ途絶えるかわかりません。
…東京が火の海に飲み込まれるのも、時間の問題かもしれません。
とにかく、瑞葉様を飢えさせないこと…。
それが私の責務です」
グラスを受け取りながら、八雲を見上げる。
「…八雲…、変わったね。昔はそんな風になりふり構わない姿を見せたりはしなかった…。
…愛は偉大だ」
八雲は静かに微笑んだ。
「戦争は非常時ですから…。
それに、私は元々大変貧しい少年時代を送っておりましたから、このようなことは何でもないことです」
…それから…と、幾分高い温度で和葉を見つめた。
「…和葉様からのご援助も…心から御礼申し上げます。
本当に助かっております」
和葉は海軍士官の特権を存分に使い、今やどれほどの大金を積んでも買うことができないハムやベーコン、乳製品の数々、缶詰、ワインなどを瑞葉のもとに送り続けていたのだ。
和葉は陽気に肩を竦めた。
「お前にそんなに殊勝に礼を言われるなんて…。くすぐったいな。
…大したことじゃない。僕は兄様の為に何かしたいんだ。
…小さな頃は…僕は何もできなかったから…」
八雲の端正な貌に一瞬痛みのような表情が走った。
「…和葉様…私は…」
…しかしすぐに首を振り、窓辺の蓄音機にふと眼を遣った。
…そして、再び首を巡らす。
「…和葉様、ひとつお願いがございます」
「なに?八雲」
深い瑠璃色の瞳が和葉を…和葉だけを見つめる。
「…私と、ワルツを踊っていただけませんか?」
南側の芝生が潰され、広い菜園が造られていた。
物珍しげに眺めている和葉の背中に涼しげな声が掛かる。
「昨年から野菜作りを始めました。
馬鈴薯、薩摩芋、人参、南瓜…夏野菜はトマト、胡瓜、ナス…土や陽当たりが良いせいか、良く育っておりますよ」
驚き、目を丸くして振り返る。
「お前が菜園を?信じられない!」
澄まし顔で、バカラのグラスにブランデーを注ぐ。
「今はまだ千賀子様のご実家からご援助がございますが、このような状況下です。いつ途絶えるかわかりません。
…東京が火の海に飲み込まれるのも、時間の問題かもしれません。
とにかく、瑞葉様を飢えさせないこと…。
それが私の責務です」
グラスを受け取りながら、八雲を見上げる。
「…八雲…、変わったね。昔はそんな風になりふり構わない姿を見せたりはしなかった…。
…愛は偉大だ」
八雲は静かに微笑んだ。
「戦争は非常時ですから…。
それに、私は元々大変貧しい少年時代を送っておりましたから、このようなことは何でもないことです」
…それから…と、幾分高い温度で和葉を見つめた。
「…和葉様からのご援助も…心から御礼申し上げます。
本当に助かっております」
和葉は海軍士官の特権を存分に使い、今やどれほどの大金を積んでも買うことができないハムやベーコン、乳製品の数々、缶詰、ワインなどを瑞葉のもとに送り続けていたのだ。
和葉は陽気に肩を竦めた。
「お前にそんなに殊勝に礼を言われるなんて…。くすぐったいな。
…大したことじゃない。僕は兄様の為に何かしたいんだ。
…小さな頃は…僕は何もできなかったから…」
八雲の端正な貌に一瞬痛みのような表情が走った。
「…和葉様…私は…」
…しかしすぐに首を振り、窓辺の蓄音機にふと眼を遣った。
…そして、再び首を巡らす。
「…和葉様、ひとつお願いがございます」
「なに?八雲」
深い瑠璃色の瞳が和葉を…和葉だけを見つめる。
「…私と、ワルツを踊っていただけませんか?」