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エメラルドの鎮魂歌
第8章 エメラルドの鎮魂歌 〜終わりの序曲〜
和葉の琥珀色の大きな瞳が見開かれる。
「…八雲…」
「…よろしければ…私とワルツを踊っていただけますか?」
…まるで、ここがハプスブルク宮殿の舞踏室かの如く優雅な所作と物腰だ。
和葉は一瞬だけ僅かに泣き笑いの表情を浮かべ、小さく頷いた。


…蓄音機から優雅に流れるのは皇帝円舞曲だ。
祖母の薫子のお伴で訪れた夜会でよく踊った。
…けれど…今は士官学校のホールで恋人と踊った甘い記憶に上書きされている。

八雲の手は大きく、その冷ややかな貌の印象を裏切りとても温かい。
「昔、ワルツの練習のお相手をいたしましたね。
…あの頃は、和葉様はお小さくて私の胸くらいのお背でいらした…。
大きくなられましたね」
ほんの少し目線が上の深い瑠璃色の瞳が優しく微笑う。
「…お祖母様の命令で、女の子と踊らなきゃならなかったから…。
…でも…と、やや艶めいた眼差しで見上げる。
「…本当は、お前と踊りたかっただけだ…。
知っているとは思うけどね」

薄く笑い明確には答えず、八雲は別の質問をした。
「ワルツがお上手になられましたね。
…士官学校でご一緒に踊る方が?」
軽やかなターンをしながら、和葉はくすくす笑う。
「…勘が鋭いな。安心して。お前みたいに冷たい人間じゃない。…寡黙だけどとても優しくて温かい奴だ」
和葉の引き締まった細腰を引き寄せながら、八雲はふっと息を漏らす。
瑠璃色の瞳が再び和葉を見つめる。

「…それは良かった…。
私は…和葉様にずっとお詫びしたいことがありました。…それは…」
「…僕の進路のことだろう?」
みなまで言わさずに、男の言葉尻を捉える。
深い瑠璃色の瞳が、驚きに見開かれた。
「…お祖母様の兄様への冷遇の意趣返しに、僕の進路を利用した…て」
「…和葉様…」
ふふ…と悪戯めいた笑みを浮かべる。
八雲の手を握りしめ、穏やかに続ける。
「…しばらくして気づいた。
八雲は、お祖母様が一番ショックを受ける方法を思いついたんだろうなあ…て」
和葉が初めて見る苦しげな表情をした男に、励ますように語りかける。
「安心して。士官学校に進むことを選んだのは僕の意思だ。あの頃にもし戻っても、僕は同じ選択をするだろう。
…僕は日本を守る軍人になりたかったし、強い艦隊に乗って世界の海を航海したかった。
…何より運命のひとに出逢えた…。
後悔することは、何もない」




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