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エメラルドの鎮魂歌
第9章 エメラルドの鎮魂歌 〜秘密〜
八雲に導かれて現れた来訪者の姿を見て、瑞葉は思わず立ち上がり…立ち上がったことに動揺して息を呑んだ。
「お母様…!」

千賀子は歓声に近い声を上げながら、瑞葉に歩み寄る。
「まあ…!瑞葉さん!噂は本当だったのね!
…貴方が歩いていると、村の小作人が知らせてくれたのですよ。
どうしてお母様に教えてくださらなかったの?
…ああ!でも良かった!貴方、歩けるようになったのね⁈そうなのね⁈」
子どもがはしゃぐように喜び、瑞葉の手を握りしめる千賀子に微かな違和感を感じた。
「…お母様…あの…」
瑞葉は何年ぶりかに会った母親をまじまじと見つめる。

…黒い喪服のドレスと黒いベールが掛かった小さなトーク帽は、和葉の死に対してまだ喪に服している表れだろう。
透き通るように白い肌、黒目勝ちの大きな瞳、形の良い細い鼻筋、可憐な唇…。
四十は過ぎた筈だが、驚くほどに若々しく…そしてその面差しはやはり瑞葉に良く似ていた。

…こうして見ると、母はとても美しいひとだったのだと改めて感じる。

千賀子は一頻り喜ぶと、婦女子に敬意を表す為に長椅子から優雅に立ち上がった青山の存在に気付き、眼を見張った。
「まあ!青山様!なぜこちらに…?」
青山とは屋敷や社交界で何度か貌を合わせたことがある間柄である。
魅力的な笑顔で、青山は如才なく手を差し伸べる。
「ご無沙汰しております。伯爵夫人。
瑞葉くんとは少し前から親しくさせていただいているのですよ」
そう言って、千賀子の黒いレースの手袋に包まれた手を取り恭しく口づけを落とす。
青山は大貴族の子弟で、しかも社交界の人気者でもある。
そんな青山が瑞葉と懇意にしていることは、歓迎すべきだと考えを巡らせた千賀子は美しい貌に笑みを浮かべた。
「そうでしたの。瑞葉さんがお世話になりまして、ありがとうございます」

青山がさり気なく先回りして、提案する。
「私は席を外しましょう。
…何か、瑞葉くんに大切なお話があってこられたのでしょう」

意外なことに、千賀子は首を振った。
そして、この場にいる全員に宣言するようにはっきりと告げたのだ。
「いいえ。青山様にも聞いていただきたいと思います。
そして是非、瑞葉さんの後押しをしていただきたいですわ」




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