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エメラルドの鎮魂歌
第9章 エメラルドの鎮魂歌 〜秘密〜
「…お祖母様は、僕のこの姿がお嫌いでした。
戻ってもきっとご不快に感じますよ…」

…まあ、何て髪の色をしているのかしら。
瞳の色はガラス玉を嵌め込んだよう…。
誰にも似てやしないわ。
全く…外れ籤も良いところね。

子ども心に侮蔑されていることは身に染みて分かった。

辛い幼少期の記憶を思い出している瑞葉の耳に、その言葉は飛び込んで来た。
「大丈夫よ。…日本が戦争に負けて、巷にはアメリカ軍の将校や兵隊が溢れているわ。
篠宮の屋敷をGHQの将校がサロンとして使いたいと言う話があるの。
…瑞葉さんのように金髪で美しい翠の瞳の後継者が表に出れば、きっと彼らは便宜を図ってくれると思うの。
同じ西洋人のような容姿の人に、彼らだって冷たく当たりはしないでしょう?」

千賀子の言葉は瑞葉を打ちのめした。
瑞葉の心を慮る言葉は何一つなかったのだ。
まるで…瑞葉を家の存続だけに必要な道具か何かのように考えているとしか思えなかった。
…お母様は…やはり僕のことを本当に愛してはくれなかったのだ…。

震える手を握りしめていると、無機質な…しかし辺りを制するような滑らかな美声が響いた。

「奥様。恐れ入りますが、奥様に折り入ってお話したいことがございます。
少しお時間をいただけますでしょうか?」
八雲の深い瑠璃色の瞳は有無を言わさぬ力を持って千賀子を見つめていた。

千賀子はややたじろいだように一瞬、眼を瞬かせたが直ぐに笑顔を取り繕い頷いた。
「ええ、いいわ。八雲、…私も貴方にお話があるの」

二人は小客間へと姿を消した。



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